第五章
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「それはな。よい」
「そうか。いいか」
「あんたと同じ理由じゃよ」
また言う長老だった。
「やはりわし等は河にいるのが道理じゃからな」
「海にいるべきではないか」
「鮫は鮫、鰐は鰐」
長老の言葉には深い叡智があった。長く生きているだけあってそれを確かに感じさせるものだった。流石に鰐達の長老だけはあった。
「海と河にそれぞれいればよいからのう」
「そういうことだな。やはりな」
「さて、そろそろじゃな」
長老は前を見て声をかけた。もうすぐ河は終わりその先にある遥かなものが見ようとしていたのだった。それが何か、鮫にはすぐにわかった。
「あれだ」
「あれか?」
「あの深い青い世界がか」
「そうだ、あれが海だ」
河の先には果てしない水の世界が広がっていた。河の淡い青とはまた違う、深い青がそこにはあった。それが海の青だった。
「あれがな」
「そうか。それではここまでだな」
「そうだな」
鮫と長老はお互いを見て声を掛け合った。
「これでな。今までのことは礼を言う」
「こちらこそじゃ」
「達者でな、あんたも」
「海に戻って楽しくやれよ」
「ああ、そうさせてもらう」
最後に鰐達に別れの言葉を告げて海に帰っていく。後に見送る鰐達の顔は実ににこやかだった。異邦人は今静かに本来の場所に帰り本来の住人達も異郷を見るだけであった。そして彼等はそれで満足するのだった。自分達が住んでいるその世界の中だけで。
異邦人 完
2009・6・10
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