第百六十八話 横ぎりその四
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「ですから」
「それではですね」
「お任せ下さい、この城は何としても守ります故」
「では私もです」
おつやも立ち上がった、そしてだった。
すぐに戦の姿に着替えた、それで言うのだった。
「今より」
「守りましょうぞ」
「兵糧はあります」
この心配は無用というのだ。
「一年は守れます」
「この援軍が来てもですね」913
二千の兵、彼等がだというのだ。
「一年ですね」
「左様です」
「では充分です」
城を守りきれる、帰蝶はこのことを約束した。そのうえで城の守りを十重二十重に固める、まさに蟻の子一匹通れない程だった。
秋山はその岩村城に五千の兵を率いて向かっていた、だが木曾で岩村城のことを聞いて顔を曇らせてこう言った。
「それではちとな」
「すぐに攻めることはですか」
「出来ませぬな」
「岩村城は堅固じゃ」
元々そうした城だ、攻めるに難い城だというのだ。
「しかも二千、尚且つ帰蝶殿か」
「織田信長の正室ですな」
兵の一人が言ってきた。
「そうでしたな」
「うむ、あの道三殿の娘じゃ」
「相当な武勇も持っておられるとか」
「これまでその猛者ぶりを見せてきた」
女だがだ、それをだというのだ。
「容易な相手ではない」
「それではですか」
「ここで攻めることは」
「うむ、迂闊に攻められぬ」
これが秋山の考えだった。
「そう簡単にはな」
「ではここはどうされますか」
「城攻めは」
「囲むがな」
しかし、というのだ。
「後は御館様のお言葉を聞いてじゃ」
「そしてですか」
「そのうえで」
「そうじゃ、攻める」
信玄の断を仰ぐ、それからだというのだ。
「囲みはするがな」
「慎重にですな」
「そうじゃ、迂闊に攻められる相手ではない」
それ故にというのだ。
「だからここはな」
「わかりました、ではすぐに御館様に忍の者を」
こうしてすぐに忍の者が遠江に入ってそこから三河に向かう信玄のところに来た、信玄はその忍に対して言った。
「わかった、では今はじゃ」
「はい、どうされるのですか」
「攻めるな」
これが信玄の言葉だった。
「そう膳右衛門に伝えよ」
「では囲めと」
「そうじゃ、岩村城はそれだけでよい」
それが何故かもだ、信玄は述べた。
「織田信長の正室帰蝶は武に秀でたおなご、迂闊に手を出すものではない」
「だからですな」
「蛟龍の妻も蛟龍じゃ」
こうも言うのだった。
「迂闊に攻めてはならぬ、わかったな」
「はい、さすれば」
忍の者はすぐに姿を消して秋山の下に戻った、信玄はその一部始終を見届けてから確かな声でこう言ったのだった。
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