第百六十八話 横ぎりその三
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「武田は織田を敵と考え」
「我等はか」
「はい、敵ではないとみなしておるのでは」
「籠城する我等が出ぬとか」
「そう思い無視したのかと」
「くっ、だとすれば我等は」
家康は瞬時に察した、徳川が武田に侮られたとだ。そして侮られるということが戦国の世でどういうことかもわかっていた。
それでだ、こう言ったのである、
「侮られては終わりじゃ」
「はい、そうなっては」
「民にも示しがつきませぬ」
「天下に声を挙げることも出来ませぬぞ」
「織田殿の盟友としてもいられませぬ」
家臣達もこぞって言う、そのことがわかっているからこそ。
それでだ、彼等も家康に言うのだった。
「殿、ここはです」
「うって出るべきです」
「そして織田殿と挟み撃ちといきましょう」
「武田の動きは速いです」
このことも言う者がいた。
「ですから三河に入られた織田殿と挟み撃ちに出来ます」
「そうじゃな、出来るな」
家康もこう見ていた、それで言うのだった。
「ではな」
「はい、今は」
「全軍出陣じゃ」
家康は今確かに告げた。
「そしてそのうえでじゃ」
「武田の背を衝きますか」
「ここは」
「その通りじゃ、我等が武田の背を衝き」
そしてだというのだ。
「そのうえでじゃ」
「はい、ですな」
「武田信玄の首を挙げましょうぞ」
「二十四将の」
「武田信玄、目にものを見せてくれる」
家康の目は燃えていた、そのうえでの言葉だった。
「徳川を侮ればどうなるかとな」
「殿、では」
酒井が言った、そして立ち上がると。
他の者達も立ち上がった、そうして家康に言うのだった。
「今より全軍で出ましょう」
「浜松より」
「急ぐぞ」
急いでだ、武田の背を衝くというのだ。
「よいな」
「畏まりました」
こうしてだった、家康は全軍を率いて浜松城を出た。武田の背を撃つべく脇目も振らず全速で向かうのだった。
この頃帰蝶は岩村城に入った、そこには市を思わせる非常に整った顔立ちの女がいた。帰蝶はその女の前に出て頭を下げて言った。
「只今参りました」
「よくぞ来られました」
「はい、ではおつや様」
「はい」
「これより共に城を守りましょう」
「それでこの城にはですね」
「武田の兵五千が迫っています」
このことも言う帰蝶だった。
「こちらは二千を連れてきました」
「二千ですか」
「この兵で守りましょう」
「わかりました、ですが」
「ですがとは」
「武田は多勢、油断はできませぬ」
おつやが今言うのはこのことだった。
「このことは」
「承知しております」
帰蝶もだというのだった。
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