第百六十八話 横ぎりその一
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第百六十八話 横ぎり
信玄は駿河を瞬く間に通り抜け遠江に入る、その頃にはだった。
信長は岐阜城に大軍を集めていた、その数はというと。
「十六万です、そこに二千」
「ふむ、ではな」
信長は蒲生の言葉を受けて言った。
「すぐに十五万を率いて尾張から三河に入るぞ」
「はい、それでは」
「先陣は久助じゃ」
滝川、彼だというのだ。
「そして権六と牛助もじゃ」
「はい、では」
「我等も」
「御主達は第二陣じゃ。左右には五郎八と鎮吉じゃ」
金森と川尻だというのだ。
「第三陣は十兵衛と猿じゃ」
「はっ、では」
「我等も」
二人も応えてだった、そのうえで。
信長は他の諸将をそれぞれの陣に入れていった、本陣は丹羽と池田、森を軸として置いた。そうしてだった。
平手にはだ、こう言ったのだった。
「爺、御主には一万を預ける」
「そのうえで、ですな」
「留守を守れ」
「わかりました、それでは」
「今すぐに出陣する、じゃが」
ここでだ、信長は顔を顰めさせこう言ったのだった。
「厄介なことがあるわ」
「犬山ですか」
「あの城ですな」
「そうじゃ、武田が来ておる」
それで言うのだった、信長も。
「秋山が率いるな」
「ですな、では犬山の城にも」
「兵を送りましょう」
「しかしじゃ」
兵は送ることが出来る、だがというのだ。
「将を送れぬ」
「名のある将は全て武田との戦に出しますな」
松永が落ち着いた声で言ってきた。
「そうですな」
「そうじゃ、爺は岐阜に残る」
それで平手は犬山には送れなかった、どうしても留守役は必要だからだ。
他の者達は皆武田との戦に出る、こうなってはだった。
「誰もおらぬ、しかしじゃ」
「秋山殿もまたひとかどの将です」
「誰か送らねばならぬ」
そのだ、織田家の名のある確かな将をだというのだ。
「一人でもな」
「ですな、それでは誰にしましょうか」
「さて、誰にするかじゃ」
松永に応えだった、信長は苦い顔になった。武田との激しい戦のことを考えると名のある将は誰も外せなかった。
だがどうしても一人送らねばならぬ、それで彼も悩んだのだ。しかしここでだった。
信長はにやりと笑った、それでこう言ったのだった。
「いや、案ずるには及ばなかったは」
「と、いいますと」
「それは」
「うむ、一人おる」
こう言った時にだった、部屋の扉が開いてだった。
青い具足と戦装束、陣羽織の女が出て来た。既にその額には青い長い鉢巻があり長い髪がなびいている。帰蝶が何時ぞやの姿のままいた。右手には薙刀がある。
その彼女を見てだ、信長はその笑みで言った。
「思えばじゃったな」
「殿、犬山城のことですが」
「御主が行く
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