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子供の質問
第四章
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第四章

「いや、正好やけれどな」
「どないしたんや?」
 年老いた兼修がにこにことしながら彼の話を聞いている。二人はコタツの中で向かい合って座っている。それを挟む形で静子もこれまたにこにことしながら同じコタツの中にいる。実質三人での話になっていたが由紀夫と兼修がメインになって話をしていた。
 その中で由紀夫は兼修に対してそのぼやく顔で話していた。
「もう大変なんや」
「どう大変なんや?それで」
「何かあったらな」
 そのぼやく顔で話す。
「これ何か、あれ何かって聞いてきてな」
「それが困るんやな」
「そや。もう何でもかんでも尋ねてくるんや」
 そうだというのである。
「それがなあ。もう大変で」
「何や、あんたと同じやないか」
「ほんまやなあ」
 静子は兼修の今の言葉にその穏やかな笑みで応えた。
「由紀ちゃんの子供の頃にな」
「そっくりやで」
「そっくりなんか」
 由紀夫は二人からそう言われてまずは目を丸くさせた。
「僕と正好が。顔だけやなくて」
「あんたの子供の頃もそうやったんやで」
「そうやったなあ」
 静子は兼修の言葉に応えているだけだがそれでも何故か妙な安心感を与えるものがあった。それは彼女の人徳からであろうか。今では家全てのお母さん、いやお婆さんとも言っていい立場になっているのだ。
「あの時わしにずっと何でもかんでも尋ねてきて困ったで」
「そうやったんやで」
「覚えてないで」
 由紀夫はその話を聞いても困惑した顔になるだけだった。
「そんなん」
「あんたが覚えてなくてもそうやったんや」
「大変やったんやで」
「そうやったんか」
 その困惑した顔で話を聞き呟く由紀夫だった。
「僕そんな子やったんか」
「それで正好ちゃんもなんやな」
「ほんま親子やな」
「そやったら僕は正好の質問に何でも答えなあかんのやな」
 二人の話を聞いて今度はこう思う由紀夫だった。子供の頃の可愛らしい感じはなく今ではまさに学者といった感じの知的な面持ちになっている。黒縁眼鏡が実によく似合っていて端整といってもいいその顔は本当に学者、若しくは銀行員のように見えた。
「親やし」
「そうや。何でも答えてあげたらな」
 兼修はその由紀夫に話す。
「あんたみたいになるかもな」
「僕みたいにかいな」
「わしがあんたの質問に全部答えて」
 その彼が子供の頃の話である。
「それで今のあんたがあるのかもしれんしな」
「今の僕がかいな」
「だから何でも答えるんや」
 これが結論なのだった。
「ええな。何でもな」
「わかったわ」
 由紀夫は兼修の言葉に素直に頷いた。
「そやったらな」
「子供の質問には何でも答える」
 兼修は最後に言った。
「それが親の、大人の務めやで」
「ほんまやなあ
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