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その魂に祝福を
魔石の時代
第一章
始まりの夜2
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足がない。手足が、身体が欲しい。奴を八つ裂きにする身体をよこせ。
 そして、それはついに生まれて初めて自分自身の欲望を叶えた。散々毛嫌いした、誰かを傷つけ貶める――そんな薄汚い欲望を。
 ……――
 一体何でこんな事になっちゃったんだろう?――夜の街を必死になって走りながら、そんな疑問がふと思い浮かんだ。とはいえ、その理由は分かっていた。
『助けて』
 突然、頭の中に響いたそんな声。その声に導かれ、家から抜け出したのがきっかけだった。そのまま不思議な声に導かれ、私が行き着いたのはあのフェレットを預けた病院。驚いたことに、そのフェレットこそが声の主だった。
 だけど、驚いている余裕はなかった。そんな事よりも、今はここから逃げ出すのが先決だった。嫌な怖さが背中を撫でる。それがどんな恐怖なのか、どうしても名前をつける気にはなれなかったけれど――もしも捕まってしまったら、名前をつけるしかなくなる。
 それは、とても怖い事だった。だから、必死で走る。
「あれは何なの?!」
 必死で走る私を、なんだかよく分からない影のようなものが追ってくる。それが何かは分からないが、とにかくこのフェレットが狙われているらしい。不自然なくらい人の気配がない夜の街を必死になって走る。どこに向かって逃げればいいのかも分からないまま。
「お願いです。お礼なら何でもします。だから――!」
「お礼って……。そんなこと言ってる場合じゃないの!」
 どうやら、このフェレットはあの何かをどうにかできるらしい。だが、そのためには私の協力が必要だと言った。
「それで、私はどうすればいいの?」
 どの道、私がいつまでも走っていられる訳がない。意味がないと分かっていていたが、電柱の陰に身を潜めて問いかける。
「はい。あなたに使って欲しいんです。僕の力を――」
 首輪から赤い宝石を取り外し、そのフェレットは言った。
「魔法の力を」
 今さらその言葉には驚かない。フェレットが人の言葉を話しているのだ。魔法があったとしても驚くほどではない。……というか、今はそんな余裕さえない。
 縋るような気持ちで、私はその宝石に手を伸ばす。だが、その直前で何かが私たちの間を切り裂くように通り抜けた。
「やめろ。その娘を巻き込むな」
 その声には聞き覚えがあるはずだった。誰よりも耳に馴染んだ声だったはずだ。だと言うのに、一瞬誰だか分からなかった。その声には、あまりにも感情がなかったから。
「光、お兄ちゃん?」
 初めて聞くその声に、恐る恐る問いかける。だが、それは本当に光だろうか。青緑色の水晶のように輝く見慣れた剣のペンダント。赤い文様が浮かぶ、黒い外套。そして、すぐ近くには凄い速さで回る鋭い何かがいくつか浮かんでいた。……まるで、獲物を待ち構えるように。
 ……――
「やめろ。その
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