第九話
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なにが嬉しいのか、ニコニコ顔――とまではいかないけど、一目見て上機嫌と判る顔。
「どったの?」
「嬉しいのです。ご主人様が私たちの主になられただけでもこの上ない喜びを感じますのに、こうしてご主人様のお顔を直に拝見することができるのが」
「そ、そっか」
テレテレ。臆面なく素直な気持ちを口にするリーラに主様は照れてしまいます。
そんな俺を優しい眼差しで見守っていたリーラが改めて口を開いた。
「やはり簡単には慣れませんか?」
「うん、こればかりは……ね」
皆にはマスクを着用していた理由も壇上で倒れた原因も説明済みだ。
困ったように眉をハの字にしたリーラがベッドの側にある椅子に腰掛けた。
「そうですか。私たちも協力しますので、マスクなしで生活が送れるように頑張りましょう。私もマスクでなく、ご主人様のお顔を拝見したいですし」
「う、うん……頑張る」
なんだろう、リーラが積極的過ぎて俺の心がドキドキしっぱなしだ。俺を萌え死にさせる気か?
前々からそれとなく好意を寄せてくれていたリーラだったが、昨夜からは露骨に態度で示してくるようになった。
今も持参してきたリンゴを華麗なナイフ捌きで綺麗に?いて、一口サイズにカットしている。
「これもリハビリの一環です。顔を見せてください」
はい、あ〜ん。と?いたリンゴを差し出してくる。
生まれて初めての生あーん。顔が赤くなるのは当然のことです。でも頑張って食べました。
寝ながら食べるのは行儀が悪いので身体を起こす。背もたれに背中を預け脚を投げ出す姿勢に。
必然的に顔を隠せなくなったけれど、そこは気力で堪える。まあそれでも少し赤くなってしまうけれど。
優しい微笑みを浮かべながら側に控えてくれるリーラ。
穏やかな空気が流れた。
いい機会なので、なぜここまで好意を寄せてくれるのか聞いてみることにした。
「リーラは、さ……その……なんでそこまで、俺のことを?」
言っていて恥ずかしくなり、ごにょごにょと言葉を濁してしまった俺に微笑み返す。
窓の外へと視線を向けるリーラに釣られて外を見た。
夜の帳が下りた空には白い月が浮かんでおり、煌びやかな星々が散りばめられている。
日本の光化学スモックに覆われた空とは比較にならない景色だ。
「ご主人様は覚えておいでですか? 十三年前の夏の夜を」
「十三年前?」
「はい」
同じく窓から突きを見上げるリーラの眼差しは、優しい。
それは遠い過去を馳せている目であり
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