第九話
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俺のどうしようもないヘルプ魂が通じたのか。
「和樹さま」
凛とした涼やかな声が、俺の鼓膜を優しく叩いた。
顔を上げると最前列にいるリーラの朗らかな微笑が出迎えた。
優しく慈母のような声で語りかけてくれる。
「頑張ってください」
その一言が、俺に冷静な心を取り戻させてくれた。
一瞬で開ける視界。視野狭窄から解放された俺の目にはメイドさんたち一人一人の顔を見ることが出来た。
楽しそうにこちらを見る人。
期待に満ちた目で俺を見つめる人。
優しい眼差しで俺を見守ってくれる人。
その眼差しは多種多様だが、共通して言えるのは、俺を主として認めてくれている点。
目は口ほど物を言うとはこのことか。目が合った、ただそれだけで彼女たちの心の一部に触れられた気がした。
自然と、口が開いた。
「正直、俺は自分は大した人間じゃないと思っている」
マイクが俺の声を拾い、中庭にいる人たち全員に届ける。
「人より優れた点もあるけれど、人より劣った点もある。それは個人差なんて言葉で言い切れないほど致命的なものも持っている」
静かに語る俺に皆が黙して聞いてくれる。
口下手な俺がどこまで上手く語れるかわからないけれど、この胸に秘めた考えと気持ちを余すことなく伝えるつもりだ。
「俺は自分がどんな人間であるかを知っている。
みんなが俺のどこに触れ、何に惹かれたのかは判らない。なぜ俺のメイドになってくれるのかも判らない。その答えは皆の胸の内にあるのだろう。
俺のメイドになることに悩んだ人がいるかもしれない。覚悟を決めてメイドになってくれた人もいるかもしれない。
こんな俺に身と時間と労力を割いて尽くしてくれる君たちに、俺はなにを返せるのだろうか? 一人の個人として、そして主として。
寝る間も惜しんで考えた。たったの一晩だけどね。
俺は学生だ。ちょっと特殊な職業に就いてるけど、大金持ちって言えるほど財産もない。
だから俺――式森和樹は一人の人間として、君たちが胸を張れるようなそんな主に成ると決めた!
この人に仕えてよかったと心からそう思えるように、そんな主に成ることが君たちへの恩に報いることだと俺は思う。
ああ、見返りがほしいわけではないと思う人がいるかもしれないけど、これはただの自己満足だから自由にさせてくれ。男は時に見栄を張りたい生き物なんだ。
そんな俺でもいいと思うなら、俺についてきてほしい。俺を支えてほしい。
式森和樹の名に掛けて、絶対に後悔だけはさせないと約束しよう。
――以上を以って誓約の言葉とさせていただきます。ご清聴ありがとうござい
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