番外14話『激情晩』
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ナミが、なぜかそこにいた。
予想外の人物に自分の正気を疑う。
こんな時にまでナミのことを考えるなんて俺はなんてバカな人間なんだろう……いや、違う。
左腕が目の前の彼女に掴まれて動かない。
ということはナミは俺の前に実在しているらしい。
「……なんで」
「ビビが起こしてくれたの……あんたが帰ってこないって」
なんだそれ。
ビビなりに心配してくれたんだろうか。それとももっと別のことを察してくれたのだろうか。どれにしたってきっと普段ならばビビにありがとうって思える。でも、今はそんなことを思えそうにない。
ただ、思う。
なんでお前が……ナミがここにいるんだ。
「どうしたのよ!?」
ナミが怒っている。
なんで怒っているんだろうか。
――意味がわからない。
俺が自分の腹を殴ろうが、ナミが傷つくわけじゃないのに。
俺のことなんて気にせず寝てたらいいのに。
――わけがわからない。
混乱する。
――ナミの端正な顔が怒りに滲んでいる。それすらもびじかわいい。
頭が整理できない。
――ナミが目の前にいることが嬉しい。
あぁ、きっと血が足りてないからだ。
――合わせる顔がない。
どの面下げて何を話すことがあるのか。
弱い男のくせにナミを好きになってごめん?
約束も守れない男のくせに麦わら一味になってごめん?
わからない。
何もわからない。
わからなさすぎて、だから。
「ごめんな」
自分勝手な謝罪をする。
「……え?」
とてもじゃないけど、ナミと一緒にはいられない。
気付けばナミに掴まれた腕を強引に振りほどいて走り出していた。
「ちょっとハント!?」
背中に聞こえる声に、それでもかまわず全力疾走しようとして「っ」それが出来なかった。
走るどころか、体に力が入らない。ほとんど倒れこむような形で失速してしまった。支えられているのか捕まえられたのかすらわからないぐらい密着した形で背中から体を捕まえられてしまった。振りほどこうにも、それすらできない。
「ほんと、どうしたのよ」
ナミらしからぬ、優しい声色。
いつだってナミはこうだ。
普段はよく怒るくせに、俺が辛いときにはこうやって俺の心配をして、優しい一面を見せてくれる。そっと隙間に入って、俺を満たそうとしてくれる。
「っ」
ナミにすがりたくなって、いや、きっといつもならば俺はもう既に縋っていた。
でも、今回だけはダメだ。
こんな時ですらナミに頼ろうとする自分の弱さが、許せない。
また、気付けば。
拳を振り上げていた。
「ば、バカ! あんたなにしてんの!?」
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