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第二章
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第二章

「それでいいね」
「うん」
 そんな話をしていたのだった。子供はそれで仕方なく諦めたようであった。しかし藤吉はその子供の言葉をしっかりと聞いていた。そうしてそのうえで考える顔になるのだった。
「凧で自分もか」
 こう考えだすと興味がむくむくと湧いてきた。とりあえずは饅頭を買って一旦家に戻る。そうしてとりあえず仕事を終えてからまずはあれこれと考えだした。
「御前さんどうしたんだよ」
 その彼にお鮎が声をかけてきた。お茶を出しながら。
「仕事が終わったら今度は自分で独楽とか作るのにさ」
「いやよ、あれなんだよ」
「あれだって?」
「この饅頭を買いに行った時にな」
 その饅頭を一個手に取って口の中に入れる。白い饅頭の中はこし餡だった。そのびっしりと詰まったこし餡を食べながらそのうえで側に座って同じく饅頭を食べる女房に告げるのだった。
「子供が凧をあげててよ」
「凧をかい」
「そうだよ。その子供が行ったんだよな」
 饅頭を食べながら話を続けるのだった。
「自分も凧に乗って空を飛べたらなってよ」
「ははは、またそりゃ凄いね」
 お鮎はそれを聞いてまずは声をあげて笑った。
「人間が凧に乗って空を飛ぶのかい。それでかい」
「そうなんだよ。おかしなことだろ」
「そんなことできる訳ないじゃないかい」
 お鮎はその可能性はないと思っていた。
「絶対にね。有り得ないよ」
「おめえもそう思うかい」
「当たり前だよ」
 また亭主に対して述べていた。
「そんなのできたらね。それこそ夢だよ」
「夢だよなあ」
 だが藤吉はここでは笑わなかった。
「本当によ。そんなことができたらよ」
「そりゃさ。御前さんは凧作らせたら江戸で一番だよ」
「おうよ」
 この自負は彼にも充分過ぎる程にあった。
「そうだよ。俺は江戸で一番の独楽と凧の職人だよ」
「その御前さんでもそういう凧なんてできないんじゃないかい?」
「だよな」
 女房の言葉に対してぼんやりとした調子だが頷くのだった。
「そんなのはよ。できねえよな」
「できないって。絶対にね」
 お鮎はまた笑って話した。
「人間が空を飛ぶなんてね」
 女房はこう言っていた。しかし藤吉は違っていた。目を伏せて考える顔になっていた。そうして実際にあれこれと考えているのだった。
 その考えのまま暫くいた。しかしある日不意に家の人形を一つ取って凧の一つに括りつけてみた。そうしてそのうえで空にあげてみるとだった。
「おやっ、いけるじゃねえか」
 凧をあげてみての言葉だった。人形が括りつけられた凧はそのまま空にあがっていた。彼はそれを見て納得したような顔で頷くのだった。
「これってよ。じゃあ若しかして」
 ここでまた考えるのだった。そうして今度は。仕事の合間にある
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