第三章
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を浮かべてそれに返す。
「今は一人でもいいって」
「あっ、そうだったな」
そう言われて牧人の方も苦笑いを浮かべた。
「だったら。当分あっちで一人でいるから」
「待っててくれるんだな?」
「そうさ」
牧人の笑みはにこりとしたものに戻っていた。
「どうせ会えるんだからな」
「そうだよな。絶対にな」
「まあそれまでの間はお盆だけな」
「とりあえずこっちの花火をもっとやれよ」
「もうやってるよ」
見れば最初の花火は終わって次の花火に移っていた。
「そして西瓜もな」
「今度は赤か」
「どっちもあるぜ。好きなだけ食えよ」
「悪いな」
こうして三人は盆の間の束の間の再会を楽しんだ。それが終わってから三人で夜の海に向かった。
夜の海は闇に包まれている。その中で波音だけが静かに聞こえていた。三人はその音の中で別れの挨拶を交わしていたのであった。
「御前、今海にいるのか?」
義彦が牧人に問うた。
「まあそうなるかな」
そして牧人もそれを認めた。
「俺、海で死んだし」
「そうか」
「そこが今の御前のいる場所なのか」
「厳密に言うとちょっと違うんだけどな」
暗い砂浜で少し困った様な笑みを作った。
「あっちの世界なんだろ?」
「そういうこと」
明憲の言葉に頷く。
「出入り口は海だけど。世界はあっちなんだ」
「そうなのか」
「そうだ。あっちの世界は一つなんだ」
「一つ」
「そこに皆いるんだ。だから一つなんだ」
その言葉は抽象的と言えば抽象的だった。だが二人にはその意味がわかった。
「そうか、一つの世界か」
「そこにな、いるからな」
「ああ、それじゃあな」
「またお盆にな」
牧人は最後にこう言った。そして海に入って行く。波音だけが聞こえる。彼が海に入る音も。それは少しずつ消えていった。遂には波音だけになった。
「一つの世界か」
「そこにあいつは帰ったんだな」
二人はそれぞれ口を開いた。
「それで俺達もだよな」
「ああ、何時かな」
明憲は義彦の言葉に頷いた。
「あそこに行くんだ」
「帰るのかな」
「かもな」
不思議とそんな気持ちにもなった。
「海から」
「あいつが今いる世界にな」
「何かそんな話してるとどっちの世界が本当かわからなくなってきたな」
「あはは、確かにな」
「ああ」
二人は何かおかしくなってきた。それで笑いはじめた。
「とりあえずまたお盆だな」
「そうだな」
「あいつが来るからな」
「何時か俺達が行く場所からな」
二人は何時までもその海を眺めていた。
海は静かに暗闇の中その波音を聞かせていた。そこには清涼なものがあり、悲しさや寂しさはなかった。二人ももう悲しくも寂しくもなかった。ただ牧人とまた会う日のことを思うだけで
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