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盆の海
第一章
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「だって髪染めてるからよ」
 義彦は言った。
「髪の毛傷めるぞ。それでそのうち」
「そうだったのかよ」
「そうだったのかよって御前知らなかったのか」
「向こうじゃ皆してるからさ」
「じゃあ皆禿げるな。東京は将来禿げだらけだ」
「御前の親父だって禿げてるじゃねえか」
「親父は親父、俺は俺なんだよ」
「何言ってる、禿って遺伝するんだぞ」
「そうなのか!?」
 義彦はその言葉にギクッとした。
「って知らないのかよ」
「ああ」
 そうやらお互い髪の毛に関する知識は乏しいようであった。
「何かよお。大丈夫なのか」
「禿げる前に結婚するからいいさ」
「できたらな」
「御前こそな。朝目が覚めたら急に・・・・・・なんてこともあるかもな」
「御前そりゃホラーだぞ」
「けれどあるらしいぜ、本当に」
「絶対にあって欲しくない話だよな」
「全くだぜ」
 中学生にしてはいささか場違いでかつ深刻な話であった。彼等はその深刻な話を終えるとまた海を見た。明憲は夕焼けで赤く染まり、同時に銀色の光を放つ海を眺めながら義彦に声をかけてきた。
「なあ」
「何だ?」
「あいつのこと、覚えてるか?」
 彼はそう声をかけてきたのだ。海を眺めながら。
「忘れるわけないだろ」
 それが義彦の返事であった。
「どうして忘れるんだよ」
「そうだよな」
 明憲はその言葉に頷いた。
「お互い。忘れられないよな」
「当たり前だろ、あいつのことはよ」
 見れば義彦も海を見ていた。二人は同じ海を見ていたのであった。
「あんなことがあったしな」
「そうだな」
 明憲はあらためて頷いた。
「あいつも。ここにいたらよかったのにな」
「ああ」
 義彦は座り込んだ。明憲は立ったままであった。
「本当ならここにいたんだ」
 義彦は座り込んでから言った。
「ここにな。それが」
「あれからもう二年経つんだよな」
「そうだな」
 義彦は海を眺めながら明憲の言葉に頷く。
「あの時の海は今よりずっと穏やかだったのにな。何で」
「俺に言われてもわかるかよ」
 義彦はたまりかねたかの様に言った。
「海のことなんてよ。何時変わるかわからねえんだから」
「そうか」
「そうだよ。こんなの本当にすぐ変わるじゃねえか。御前もわかってるだろ」
「ああ」
 その言葉に頷く。彼も長い間ここに住んでいた。だから海のことはかなりわかるつもりだった。
 穏やかかと思えば急に荒れる。そしてその下には何があるかわからない。板の下一枚は地獄とはよく言ったものだ。海はどれだけその表面が綺麗でもその中は果たしてどんな顔はわかったものではないのだ。あの時もそうだった。
「いきなりだったよな、本当に」
「そうだったな」
 義彦は落ち着きを取り戻した。そのうえで明憲
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