伊月「夢が、あるから」
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「仲間になれとは言わない。が、今後何かしらのバックアップをしてくれるなら、殺しはしない」
「……?」
こいつ、俺に選択を与えてるのか?
俺はそこに少しだけ違和感を覚えたが、パニック寸前の頭ではそんな事は些細な事だった。
有利に立たれているのは言うまでも無い。傍から見れば、今の俺は銃にガチで怖がっている少年といったところだろう。先程の勇姿は影すら無い。
だが、ハゲチャビンが提示してきた二つの選択は迷うほどのものでも無かった。アンタ、もうちょい凝った究極的な選択を考えた方が良かったな。
「だ、れが。アンタ達の仲間になるかよ……」
最初は声が掠っていたが、その後はか細い声ながら言う事が出来た。
しかし、事態はそう簡単なものでは無い。座り込んだ状態、しかもこんな至近距離では銃弾を避けるなんて神業出来るわけが無い。
「そうか。君は死ぬ方を選ぶんだな。了解した」
そう言うと、ハゲチャビンは拳銃のスライド部分を動かす。初弾装填は完了したようだ。安全装置を下にして、撃鉄を起こす。俺の予想が当たっていれば、もう発砲可能段階だ。
「……何か言い残したい事は」
ハゲチャビンが低い声で俺に問い掛ける。ここでもまた違和感。だが、自分が死ぬかもしれないという現実がそれを塗り絵のように塗り潰す。
俺が無言を貫いていると、それを否と受け取ったハゲチャビンは静かに息を吐く。
「無いのか。なら、邪魔である君には消えてもらう」
「……なんで」
「ん?」
「なんで、殺すんだ」
震える声で、俺はハゲチャビンに問う。この際ビビっていようが関係ない。俺はまだ死ねないんだよ!
「俺はまだ生きていたい!なのに、アンタらの都合で殺されるなんて、そんなのアリかよ!」
数週間前の俺なら、あっさり死を受け入れただろう。自分で自分を殺さずにすむのだ、なら人に殺してもらった方が楽かもしれない。そう考えただろう。
だが、それは間違いだ。そう考える事自体、『死んでいる』のだ。この世からいなくなるのは前触れみたいなものだ。
だが、俺はその前に生きる意味を持った。生きて成し遂げたいものが出来た。それはとても素晴らしい事で、人間らしいと思える。
しかし。
時は待ってくれない。
「なら、君は最初から我々の指示に従っているべきだった。こうなる事も想像出来ないなら、所詮それ以下だ」
パァァァァァンという耳をつんざくような音と硝煙の臭いが通路中に蔓延したのはその瞬間だった。
世界が、暗転する。
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