伊月「夢が、あるから」
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の時の俺は、今の俺の考えを全力で否定してくるという確信があったからだ。入学する前から、俺の運命は決まっていたのだ。
もしかしたら、強欲なのは俺も同じなのかもしれない。強くなるという事を易しく受け止めた俺は、強さを簡単に得ようとした強欲さを持っていると考えても不思議では無い。
志乃と久しぶりに会話して、カラオケに行ったあの日。健一郎とカラオケに行って、現実の理不尽さをぶちまけたあの日。過去と決別しようとした俺だが、やはり拭いきれない何かがあったようだ。
しかし、それは今日解消された。志乃が背中を押してくれた上に、このステージだ。まさか、刺又を持って剣道のような構えをとるとは思ってもいなかった。けど、それもこれで最後だ。ここで剣道ともケリを付ける。
そして、それらが積みに積もって、俺は自分が犯した罪を他人に告白する事が出来た。
もちろん、俺がやったのは犯罪だ。ルールに従って裁かれるべきものだ。それを他人に打ち明けるというのは、想像以上に辛い。胸が締め付けられるような感覚が生じる。それだけで自然と汗が流れてくる。最近よく汗拭くな、俺。
もう逃げない。もちろん辛いや苦しい事だってある。逃げなきゃやっていけない事だってある。だから諦めない。すぐに放り出すような事はしない。もっと頑丈になってやる。
「一度俺は脱線しちまった。皆との遅れはもっと広まっちまった。けどこんなところで諦めない。全てを放棄して、アンタらみたいになるのは御免だ」
あ、言い過ぎたかも。やべぇ、相手に引き金引かせるきっかけ、俺が作っちゃった?
「……言ってくれるな、ガキの分際で」
ハゲチャビンが怖い顔でそう言ってくる。マジで怒ってるよ。どうしよう。
「お前こそ、罪を犯した存在であるくせに。少年院にも行かずにこんなところで油を売っている落ちこぼれが」
「確かに、俺は少年院に行ってもおかしくない事をやった。自主退学という形で学校辞めさせられてから、やる気も無くなった。生きてる意味あんのか考えてた」
「なら、何故死ななかった。死ねば楽になれるのに」
「夢が、あるから」
「夢?」
そう。夢だ。俺には明確な夢がある。最初は否定していたけど、それでも妹のおかげで受け入れる事が出来たもの。
退学する前までは、夢なんて無かった。小学生の頃は何かしら言ってたんだろうけど、本気にはしていなかった。本気だったら今でも覚えてる筈だし。せいぜい良い会社に入って家族を養う程度にしか考えていなかった気がする。
けれど、今は違う。胸を張って堂々と言える。沈黙したままの志乃にも、それが届いている事を願う。
「俺の夢は、歌手になる事だ」
その言葉に、ハゲチャビンは些か拍子抜
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