49:ボクの王子様
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ミルはさっとその手から逃げるように俺の胸から離れ、照れ隠しするようにすぐにくるりと背を向けて数歩離れた。
「……さっきの言葉が嬉しかったから、キリトにはボクの秘密を教えてあげる。マーブルも知らない……とっておきの秘密」
後ろに組んだ手はそのままに、こちらに背を向けたユミルは突然そんなことを言う。
「ねぇ、キリトは《性別逆転事故》って知ってる?」
「え? ……えっと、確か……」
発端はSAOのデスゲームが始まってかなり初期の話になる。第一層《はじまりの街》……約五千人という全体で半分ものプレイヤーを内包する街でとある小さな騒ぎが起こった。
内容は事故の名前から察せる通り、本来とは逆の性別がアバターに設定されているというプレイヤーの存在が世間に知れたのだ。
性別逆転を名乗り出た該当者は、全体でも両手で数え足りるほどのごくごく少数、また性別が違ってもアバター自体は現実世界の姿とほぼ何の変わりもない点、加えて該当者全員が性別の表示される装備一覧ウィンドウを開くまでもなく充分に生活していける安全な《はじまりの街》の住民だった事が発見が遅れた理由だった。
命に係わる程ではないものの、SAOでも稀にみる顕著なバグフィクスに当初は話題騒然となった。
そんな時、当時から頭角を現し始めていた攻略組ギルド《血盟騎士団》の団長、ヒースクリフが珍しく……何事にも攻略以外の事には首を突っ込むことをしなかった彼が、本当に珍しくこの件に関しては以下の言及を示したのだ。
――恐らくナーヴギアの性別判定は脳波で決定していると思われる。ゆえに、ごくごく稀に何らかの弾みで異性と判定されるケースがどうしても出てしまうと考えられる。故に、これはバグの類ではなく偶発的な誤検出の結果と推測する。対策として、誤判定されたプレイヤーはこの世界を監視している茅場晶彦へ向けて、団結して蜂起してみる事を提案する。
……と。
後に、この影響を受けた僅か数人のプレイヤーははじまりの街中心で蜂起活動を起こし……すると、いつの間にかその場にいた全員の性別が正常に戻っていて、事態は収束――後に、ナーヴギアの後継機であるアミュスフィアでもごく稀に同様の誤検出がどうしても起きてしまう事はまた別のお話――した。
そんな、特殊であれどSAOの激動の毎日においては、ごくありふれた小さな出来事だった。
「――そんな出来事だったか。でも、なぜ突然そんなことを?」
「……もし、誤検出の修正が行われたのが、その場にいた数人だけ、だったとしたら?」
「え……?」
ユミルは尚も俺達に背を向けて語り続ける。
「もし、その場に居なかった、修正を未だ受けていないプレイヤーがいるとしたら……?」
「お前、なに言って――」
そこまで言って俺の言葉が凍る。
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