49:ボクの王子様
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「……もう、行っちゃうんだね」
「ああ。事件が解決した以上、ここに長居する理由はなくなったからな。……早く最前線の攻略に戻らないと」
「そう、だよね……うん」
名残惜しそうにユミルは少しだけ俯いた。
ユミルが目覚めた翌日の朝。
死神事件を解決した俺達はこの五十二層を後にすべく、これまで世話になったマーブルの営む宿《ウィンキング・チェシャ》の前に立っている。
その看板の元には、俺達の見送りにと彼女とユミルの二人が立ち、俺達の前に並んでいた。
俺はユミルの隣の店主にも軽く会釈をする。
「マーブルさんも、今までお世話になりました」
「とんでもないわ。……むしろ、あなた達には感謝してもしたりないくらい。それに……」
遠慮しがちに会釈を受け取ったマーブルは、小さく息を吐いた。
「ごめんなさいね。事件後の後始末まであなた達にも任せちゃう形になってしまって……」
「いえ……あれは、マーブルさんの協力無しではできませんでした」
それを聞いたユミルは、俯かせた顔の視線を申し訳なさそうに少し泳がせていた。
……これは事件後。ベリーがユミルを蘇生させた後の話である。
ベリーがユミルを遺し、その後少しして……俺の索敵スキルに複数のプレイヤー反応が現れた。その全員がこの場へと向かってきていた。それがユニコーン発見の噂を聞き付けた他層のプレイヤー達が駆け付けてきたのだと予想するのに時間はかからなかった。
今この場にユニコーンはいないが、だからこそ今のタイミングが衆目の目に晒されるのはかなりマズい。
彼らの目的である膨大な経験値とドロップするはずの大量のレアアイテムの山は、蘇生能力の代償だったのか、それらは皆無である。それらの怒りの矛先は……あまつさえ死神事件の犯人であるうえにユニコーンの持ち主であったことも判明したユミル以外に他ならない。この場にいた俺達もその顛末の説明を強いられ、後にユミルが目を覚ませば、ユニコーンと事件の責任を糾弾されることだろう。
ユミルには、ようやく人を信じれるようになったのに、目が覚めてみれば次の瞬間には欲に溺れた人々の罵声を一身に浴びる……という惨状が待っていることは想像に難くない。目に余るこの展開はユミルにとって非常によろしくない。
どうしたものか、とこの困窮とした状況に歯噛みしていると、ここでマーブル首を押さえて小さく呻きながら目覚めて……
そして、それを見た俺の中である天啓が閃いたのだ。
「……協力といっても、私のあんな道化役で大丈夫だったのかしら」
それに俺はグッ、と親指を立ててサムズアップする。
「完璧でしたよ。それにあとの帳尻合わせを付ける話も簡単なものでした」
…
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