第八章
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ても過言ではない。
「それでももう一杯はあるからね」
「あいよ。じゃあもう一杯」
食べ終わったところで頼む。またうどんのつゆと葱の濃厚な香りが彼を包むのであった。その香りを楽しみながら彼はまた老婆に問うのだった。
「それでね」
「何だい?」
「さっきのお坊さんの名前だけれど」
それを彼女に問うのだった。
「何ていうんだい?」
「アッサムっていうんだよ」
老婆はそう告げた。
「三年程前に亡くなられたけれどね」
「そうなんだ」
ここでは少ししんみりとした。しかしそれは一瞬のことだった。
「憶えておいてね、この名前をね」
「憶えたらうどん代まけてもらえるかな」
「いや、それはないよ」
老婆の方が一枚上手であった。やはり年の功には勝てない。
「ちぇっ、やっぱり手強いな」
「まあそれはいいとして。憶えておいてくれたら嬉しいよ」
「わかったよ。じゃあ憶えておくよ」
若者もそれには素直に頷く。頷きながらうどんをすするのであった。
「それで喜んでくれるんならね」
うどんは確かに日本のそれだった。遠いバンコクで六十年前にアッサムが苦労して見つけた味が残っていた。だが若者はそれを知らなかった。知らなかったがその味を美味しいと言って楽しく食べるのであった。
不思議な味 完
2008・2・26
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