暁 〜小説投稿サイト〜
不思議な味
第八章
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初

「お得意様の好きなものを用意しておくのは商売の基本じゃないかい」
「そうだけれどね。それにしてもこのうどんって」
 食べて味わってみる。その感想は。
「本当に日本の味なんだ」
「その味にするのに苦労したんだよ」
 また笑う。さっきと同じ笑みだった。
「私の知ってるお坊さんがね。苦労して見つけたんだよ」
「お坊さん?」
 その日本人の若者はお坊さんと聞いて顔をあげた。それで老婆に問う。
「お坊さんに教えてもらったんだ」
「タイのお坊さんだよ」
 それは断る。
「戦争が終わった後にねえ。私が食べてみたいって言って見つけてくれたんだよ」
「戦争が終わった後?」
「私が子供の頃だよ」
 今度はこう言ってきた。若者もそれを聞いてその話が随分昔だとわかった。少なくとも彼が生まれる随分前のことであるのは間違いない。
「あんたのお爺ちゃんもいたかもね」
「タイに!?ああそうだよね」
 若者はそれを聞いて老婆が何を言いたいのかわかった。それで頷くのだった。
「日本軍ってここにも来ていたんだったね」
「言ったら悪いけれどあんたよりずっと凄い感じだったね」
 老婆は笑ったまま彼に話す。
「厳しくて真面目で口やかましくてね」
「日本軍ってそうだったんだ」
「そうさ。何かあるとすぐに殴ってきたしね。その分生真面目でしっかりしていたよ」
「ふうん」
「その人達が食べていたんだよ」
 そのことを正直に話すのであった。
「それをね。お坊さんが作ってくれたんだ」
「このうどんをねえ」
「最初は味がないと思ってびっくりしたよ」
 今度ははじめて食べた時のことを話すのだった。
「けれど何度か食べているうちに気に入ってね。今じゃこうして」
「商売にしているんだ」
「そういうことだよ。勿論普通のタイの麺も作れるよ」 
 それは断っておくのだった。
「けれどね。あんた達にはこれを作ることにしているんだ」
「日本人用に」
「また来るとは思わなかったよ」
 今度の言葉はまた実に意味が深いものであった。
「戦争が終わってからまたあんた達が来るなんてね。しかも感じが全然違ってね」
「そりゃ俺達戦争してないし」
 若者は軽い感じでこう言葉を返した。
「一緒になんてなれる筈がないよ」
「それもそうだね。まああそれはいいとして」
「何だい?」
「美味しいかい?」
 それを彼に尋ねてきた。
「私のうどんは。どうだい?」
「いい感じだよ」
 返事は老婆が望むものだった。
「もう一杯欲しい位だね」
「いいけれどちゃんとお金はもらうよ」
「ちぇっ、しっかりしてるな」
「タイ人を甘く見たら駄目だよ」
 老婆もかなり強かだ。このタイ人気質は彼女もしっかりと備えている。というよりはしっかりと熟成されて持っていると言っ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ