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戦国異伝
第百六十七話 信玄動くその九
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「わしは上杉謙信も殺すつもりはない」
「殿の天下の為に必要だからですな」
「二人をわしの左右に置く」
 信長と謙信、この二人をだというのだ。
「そのうえで天下を治める」
「二匹の龍を従えるのですな」
「真の天下人は龍を制するものじゃ」
 そうしたものだというのだ、これは異朝の考えも入れている。信玄は常に書を読み異朝の古典にも通じている。それが為にこう考えるのだ。
「そしてわしは都に入り天下を治める」
「では御館様が天下人に」
 幸村がここで興奮を隠しきれない声で信玄に問うた。
「そうなりますか」
「うむ、しかしわしは将軍にはな」
「なられませぬな」
「なれぬ」
 ならないのではなかった、なれないというのだ。この二つの違いを強調するのだった。
「わしは源氏だが甲斐源氏だな」
「はい、それは」
「公方様は足利家、将軍になれるのは三つの家だけじゃ」
 室町幕府においてはというのだ、信玄はこのことを強く言うのだった。
「足利、吉良、今川の三家のみ」
「では御館様は」
「わしは都で公方様に管領の位をお願いする」 
 これが信玄が座すべき場だというのだ。
「そして天下の執権として治めるつもりじゃ」
「そうなられますか」
「わしは甲斐の国の守護家じゃ」
 この考えも強くあった、信玄の考えはあくまで幕府の中にあるのだ。このことは上杉謙信もまた同じである。
「だからこそな」
「左様ですか、天下の執権ですか」
「わしはそうならせて頂く」
「織田、上杉を従えたうえで」
「織田信長がわしの次の管領、近畿管領じゃ」
 信長にはそれを任せるというのだ。
「そして上杉謙信は関東管領じゃ」
「二人に東西を任せてですか」
「わしは天下の執権じゃ」
 その二人の上に立ってだというのだ、信玄が描く天下はそうしたものだった。
「ではよいな」
「はい、さすればそれがし御館様の為に」
「うむ、千陣を頼むぞ」
「山県殿と共に」
「全く、御主の元気よさときたら」
 どうかとだ、今度は山県が出て来て幸村に呆れながらも温かい声で言ってきた。
「これまで見たことがないわ」
「左様でありますか」
「その忠義の熱さもな」
「いや、それがしはどうも常に」
「そうしていなければ気が落ち着かぬか」
「はい、どうも」
「武芸に励む時も書を読む時もじゃな」
 幸村は忠義だけではない、その文武においても武田家でも群を抜いている。そして忍術もまた身に着けている。まさに天下に知られた漢になっている。
 その彼にだ、山県はこう言うのだ。
「熱いのう」
「左様ですか」
「その赤備えが燃えている様じゃ」 
 そもそも火の色だ、だがその火がだというのだ。
「炎じゃな」
「そうですか、それがしは」
「うむ、炎じゃ」
 それ
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