第5章 契約
第92話 血の盟約
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び掛ける名前と言う物は重要です。特に彼女の場合、もしかすると真名に関係して来るかも知れない名前ですから。
一瞬の空白。その空白の間、静謐な……。ただ静謐なだけの瞳が俺を見据える。
これは、……おそらく迷い。
そして、
「あなたに呼んで貰った名前は、わたしに取って一番大切な名前」
彼女にしては曖昧な答え。この答えでは、俺が彼女を呼ぶ名前ならば、どのような名前であろうとも受け入れる、……と言う風に聞こえるのですが。
そう考え、次の問いを発しようとする俺。しかし、その考えが言葉に成るよりも早く、
「シャルロット以外の名前なら」
……と伝えて来た。
これは……。
タバサの本名はシャルロット。シャルロット・エレーヌ・オルレアン。現オルレアン家当主にして、次代のガリアの王ルイのお妃。つまり、シャルロットと言う名前には、貴族としての未来が待って居ると言う事。確かに、タバサが貴族としての義務を果たすのが面倒で貴族の名前を欲して居ない訳ではないのでしょうが、それよりも自由な生活を望んでいるのは事実です。
それに……。
それにタバサに取っては、自らの妹……。あの夢の世界で二度出会った少女が、何故かシャルロットと言う名前に拘りを見せて居た事に引っ掛かりを感じて居るのかも知れません。
何故ならば、あの時の少女は、何故か俺がシャルロットと呼び掛けた時にのみ反応して居ましたから。
もしかすると、あの少女もシャルロットと言う名前で育てられたのかも知れませんが。
タバサの控え……いや、オルレアン家の姫にして、最後に残ったオルレアン家の当主の替え玉として使用する為に、何モノかの手に因って。
もっとも、それは今、アレコレと考えても意味のない事ですか。
「それなら、しばらくの間はタバサと呼ばせて貰うな」
そう伝えながら、少し前かがみになり、
「それで良いな――――」
本当に小さな声で彼女の耳に囁く。彼女だけが聞こえたら十分な音量で。
誰の物とも知れない記憶。前世の俺だとも言えるし、それ以外の何者かの経験を何処かで追体験した可能性も否定出来ない。そんな曖昧な、ただ記憶の片隅にだけ存在する、長い蒼髪を持つ少女の名前を彼女の耳元で告げたのでした。
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