第5章 契約
第92話 血の盟約
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な首の動きを左の首筋に感じる。
その瞬間――
右の脇腹と、左の首筋に走る裂傷。これは間違いなく返りの風。右肩越しに戦場を顧みると、其処には――
元アルマンの魔物の本体に、頭部を掴んだまま持ち上げられた俺の分身の変わり果てた姿が。
手にしていた刀は失い、もがくように伸ばされた手は空しく宙を掴む。そして、その身体からはすべての水分が失われ、骨と皮だけの姿に……。このルルド村の吸血鬼事件の被害者たちと同じ姿へと変えられた自らの分身が存在していた。
何回見ても、自分自身が死ぬ瞬間の場面は気持ちの良い物ではない。せめてもの救いは、その一瞬後には、剪紙鬼兵は元の紙切れに戻ってくれる事ぐらいか。
しかし――
後方に意識を向けた瞬間、僅かに緩めた縛めから解放される彼女。
そして、再び正面に視線を戻した瞬間――
普段とは違う、紅い色に彩られた真剣な瞳と視線が交わった。
少女が小さく……、何時もと同じように動いたか、動かなかったのか判らないぐらいの微かな動きで首肯く。
そしてそのまま、僅かに瞳を閉じ……。
首筋に彼女の吐息を感じた。いや、それだけではない。首筋に走る返りの風に因り受けた裂傷の辺りに何か柔らかな温かい――
その瞬間、思わず吐息が漏れ出て仕舞う。
其処は自身が触れても何も感じない辺り。しかし、彼女の舌が微妙に上下する度に、そして、彼女のくちびるを感じる度に何か……甘美さを伴う何かを感じる。
何と言うか、もうこのままダメに成って仕舞いそうな時間。長いようで有り、短いような重ね有った時間の後、ゆっくりと身体を離して行く彼女。
離れ難いような香りを残して……。
しかし、これで終わりではない。
俺の瞳を覗き込み、少し迷うかのような気を発する彼女。彼女の容貌を構成する重要なパーツを取り外したその顔は、普段以上に少女を幼く感じさせた。
ただ、それも一瞬。普段と比べると不自然に伸び、並びの悪く成った白い歯で色素の薄いくちびるを噛み切る彼女。その噛み切られた傷口から鮮やかな紅い玉が浮かび、俺の血と混ざり合う。
俺の血が鮮やかな鮮血なら、彼女の血も同じ色彩。その鮮やかな色彩に飾られた彼女の薄いくちびるが、普段以上に妖艶に感じられた。
「受け入れて欲しい。わたしの力、わたしの想いを……」
俺の頬に手を当て、一瞬、酷く優しげな……記憶の中にだけ存在する彼女と重なる少女の如き瞳……普段の怜悧な、と表現すべき瞳ではない今まで見せた事のない瞳で俺を見つめる彼女。普段よりも少し冷たい指先が、妙に心地良い。
しかし、それも一瞬。次の瞬間には瞳を閉じ――
自然な形で彼女のくちびるが俺のソレへと重ねられる。今までも何度か経験した事が有る柔らかい感触。
そして感じる血液の
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