第5章 契約
第92話 血の盟約
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比べても、既に倍ぐらいの圧力は感じて居るのですから。
どう考えても、状況が好転しているとは言い難い状態。
熟練の木こりが斧を振り下ろすような音が木霊する。その度にまた一歩、テスカトリポカが支配する異世界が近付き、通常の世界が遠のいて行く。元アルマンの魔物から発する闇の気配が、五山の送り火の効果を、そして、除夜の鐘の霊気を徐々に凌駕して行くのだ。
どうやって倒す。……ウカツな攻撃は相手の数を増やすだけ。そうかと言って、強制送還を行えるとは思えない相手。アルマン自身が持つこのハルケギニア世界との絆や執着……世界の王と成る、と言う野望が有る上に、今のヤツの術への抵抗では、異界に簡単に送り返すには……。
ただ、時間を掛ければ、掛けた分だけ、こちらが不利に成って行くのも事実。
何故ならば、今は未だ五山の送り火や除夜の鐘が多少なりとも効果を発揮しているはずなのですが、この効果は時間に限りが有る物。
どちらも今日と明日の境界線までしか効果を発揮しない術ですから。
現状では、ほぼ無敵に等しい相手を倒す、……と言う、限りなく不可能に近い作戦を考え始める俺。
しかし……。
そっと頬に添えられる冷たい……まるで、生なき存在の如く冷たい手。
そして、ほんの少し力を加える事で、自らの方向に俺の視線を向けさせる彼女。
普段ならば……。特に他者の視線が有る時には、彼女は絶対にそんな直接的な事は行わない。
かなりの違和感。しかし、現在の周囲の状況から考えると――――
自らの腕の中の少女に視線を移す俺。ある想定を頭に浮かべながら。
元アルマンの魔物が発生させる闇が支配する世界の中心。しかし、俺の腕の中の彼女は白く輝いて見えた。
いや、完全な白と言う訳ではない。普段の彼女の霊力が活性化した時に感じる精霊の輝きよりも少し陰気に沈み、そして、因り妖艶に感じた。
矢張り、夜の闇が濃い冬至の夜に、吸血姫としての因子が活性化しているのか。
それに、今、ここに顕現しようとしている邪神は、吸血鬼としての側面も持つテスカトリポカ。ヤツの呪力が異世界よりアルマンを通じてこのハルケギニア世界にもたらされて居るのならば、その影響は俺よりも女性と言う陰の要素を持ち、更に、血の中に夜の貴族の因子を持つタバサの方に因り大きな影響が出ても不思議ではない。
「もっと強く抱きしめて……欲しい」
とても愛おしい物に触れるようにそっと頬を撫でながら、そう囁く彼女。
普段の彼女からは絶対に聞けない言葉。そして、彼女の繊細な指が、何か答えを発しようとした俺の口を封じて仕舞う。
薄い闇の中、彼女の瞳が妖しく紅く輝き、俺を――俺のすべてを欲するように、熱く見つめて来る。
もう二度と失わないように。
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