第六章
[8]前話
「最後にお祖父ちゃんの名前も出るからな」
「えっ、お祖父ちゃんもなんだ」
「この映画を作っていたんだ」
「そうさ、画面には出ないけれどな」
スタッフとして名前は出るというのだ。
「よく観ておいてくれよ」
「うん、じゃあね」
「お祖父ちゃんの名前も観るね」
「絶対にね」
「最後に出るからな」
スタッフロールの時にというのだ。
「よく観てくれよ」
「そうなんだね。けれど」
ここでだ、孫の一人が彼に言ってきた。祖父の家のリビングにおいて。
「まだこうした西部劇作ってるの?」
「イタリア人がスペインまで来てか」
「うん、まだ作ってるの」
「ははは、もう昔の話さ」
チンベッサはその孫に笑って応えた、だがその笑顔は。
何処か寂しげだった、それでこう言うのだった。
「お祖父ちゃんもタクシーの運転手にかかりきりになったよ」
「イタリアから人が来なくなって」
「それでなんだ」
「そうさ、もう今では殆ど作ってないよ」
西部劇はというのだ。
「昔の話さ」
「本当にお祖父ちゃんが若い頃のことなんだ」
「まだお父さん達が子供だった頃の」
「祖母さんもその頃はとても美人だったぞ」
チンベッサは今も共に住んでいる女房のことをここで言った。
「この世で一番な」
「お祖母ちゃんも?」
「綺麗だったんだ」
「今じゃビヤ樽みたいだがな」
そこまで太ったというのだ、若き頃と違って。
「とても綺麗だったんだぞ」
「ううん、信じられないね」
「お祖母ちゃんが痩せていたんだ」
「すらっとしててな」
両手を空で上から下にやっての言葉だ、ストンとした感じで。
「本当に美人だったんだぞ」
「それでお祖父ちゃんもなんだ」
「皺がなかったんだ」
「それでこの映画をイタリア人達と一緒に作っていたんだ」
あらためてこの映画の話をするのだった。
「そうだったんだぞ」
「じゃあそのお祖父ちゃんが若い時に作っていた映画をだね」
「イタリアの人達と一緒に作ったそれを」
「観てくれよ、お祖父ちゃんがやった仕事の一つをな」
孫達に笑顔で話しつつ観るのだった、彼は自分のした仕事を孫達に観せながら笑顔でいた。懐かしい時代のことを思い出し楽しみながら。
マカロニウエスタン 完
2014・2・20
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