第五章
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「当然だからな」
「あんた他のことにはいい加減なのにね」
女房は笑って亭主にこんなことも言った。
「これだけは違うのね」
「ああ、真面目にしないとな。仕事だけは」
「御飯が食べらないわよね」
「パンもパエリアもステーキもワインもな」
そのどれもがだというのだ。
「消えなくなるし飲めなくなるからな」
「だからよね」
「ああ、仕事だけはな」
真剣にするというのだ。
「そうするさ」
「そういうことね」
「それでその結果だよ」
スタッフロールの自分の名前を観ながらだ、チンベッサは微笑んで自分の隣の席にいる女房に対して話した。
「俺の名前があそこになるんだよ」
「これからもよね」
「ああ、映画の仕事がある限りな」
その限りはというのだ。
「そうなるさ」
「そう。じゃあね」
「これからも頑張るぜ」
仕事、それをというのだ。
「それで美味いもの食おうか」
「頑張って稼いでね」
「そうするからな」
こう家族に笑顔で話すのだった、これが彼がまだ自分の子供達が小さく養っていた時のことだ。そして歳月が経ち。
子供達が成長し彼等も家庭を持ちチンベッサも歳を取った。もう働いてはいない。
その彼がだ、孫達に自分の家で昔の映画のビデオを観せて話していた。孫達はそのビデオを観てこう言った。
「これ西部劇だよね」
「アメリカの映画?」
「おいおい、言葉をよく聞くんだ」
ハリウッドの映画かと思った孫達に笑顔で言う彼だった、すっかり年老いているがその顔は若かりし日の面影がまだある。
「英語じゃないだろ」
「スペイン語?」
「そんな感じだね」
「イタリア語だよ」
近いが違うというのだ。
「これはな」
「へえ、イタリア語なんだ」
「じゃあイタリア映画なんだ」
「そうだよ、これはイタリア人が作った西部劇なんだよ」
それだというのだ。
「面白いだろ」
「へえ、イタリア人も西部劇作ってたんだ」
「そうだったんだ」
「昔はな」
そうだったというのだ。
「イタリア人がわざわざうちに来てな」
「スペインまで来てなんだ」
「映画撮影していたんだ」
「西部劇を」
「そうだったんだ」
「そうさ。今はもう殆ど撮影していないけれどな」
それでもだ、かつてはというのだ。まだ彼が若い日のことを孫達に話すのだった。
「御前達のお父さん達がまだ小さい頃にはな」
「へえ、かなり昔だね」
「その頃の映画なんだ」
「お祖父ちゃんもこの映画を作っていたんだよ」
テレビに出ているガンマン達を観ながらの言葉だ。
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