第六章
[8]前話
「だがそれでもだ」
「菫はですね」
「今の陛下のお花ですね」
「これからもな」
まさにそうだというのだ。
「そうある、だからこそだ」
「この菫達もですね」
「お喜びになられていますね」
「その通りだ、私はこれまでも菫と共にある」
この花と、だというのだ。
「何があろうともな」
「ではこれを」
一人があるものを出してきた、それも菫の花束だった。
その紫の花束を差し出してだ、彼はナポレオンに言うのだった。
「お受け取りになって下さい」
「済まないな、それでは」
「菫と共に」
ナポレオンの栄光はと言うのだ、菫達もまたナポレオンの帰還を迎えていた。
そしてナポレオンの死の時だ、彼は死の床で二つのものを手にしていた。医師がその彼に怪訝な顔で尋ねた。
「それ等は」
「私が愛したものだ」
死相を浮かべながらだ、ナポレオンはベッドの中から医師に顔を向けて答えた。
「どちらもな」
「髪の毛は」
「ジョゼフィーヌのものだ」
別れた筈の彼女のものだというのだ。
「それなのだ」
「皇后様のですか」
「別れたくはなかったが」
それでもだというのだ。
「仕方がなかった」
「左様ですか、そしてですね」
医師はナポレオンが手にしているもう一つのものを見た、それは紫色の小さな花だった。しなびてはいるが。
「そのお花は」
「菫だ」
その花だとだ、ナポレオンは医師に答えた。
「私の花だ、そして」
「そして?」
「ジョゼフィーヌを救ってくれた花だ」
「そちらも皇后様でしたか」
「そうだ、この二つを手にしてな」
そうして、というのだ。
「私は去ろう」
「左様ですか」
「うむ、ではな」
ここまで話してだ、ナポレオンはゆっくりと目を閉じて呟いた。
「フランス」
まずは彼が愛した国を。
「軍隊、戦争」
そして彼がその中で生きた二つの世界を。
最後にだ、彼は彼女の名前を出した。
「ジョゼフィーヌ・・・・・・」
菫の花を手にしたまま呟いたのだった、そのうえで彼は世を去った。ナポレオン=ボナパルトは最後の最後まで菫を愛し菫と共にあった。
スミレ伍長 完
2014・4・18
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ