第七章
[8]前話
「ずっとな」
「そうでしたか」
「そうだ、だが明日だ」
「怨霊を鎮めますか」
「さもないとまたこうしたことが起こる」
穴を見ながらの言葉だった。
「だからこそな」
「わかりました、じゃあお願いします」
「そうする」
こう話してだ、そのうえでだった。
老人は次の日朝この場に来て夕方までかかって寺の怨霊達を鎮め成仏させた。それが終わってからだった。
夜だ、彼はナム達に食事に招かれた。その場でこう言うのだった。
「どの人達も立派な方々だったが」
「その人達がですか」
「殺されてですか」
「そうだ、怨霊になった」
まさにそうした存在になってしまったというのだ。
「誰もがな」
「そうだったんですか」
「誰もがですか」
「残念なことにな」
無念と共の言葉だった。
「そうなってしまった」
「お坊さんや尼さんでもですか」
ナムはビーフンを食べつつ老人に尋ねた。
「怨霊になるんですか」
「そうだ、その殺し方が理不尽で残虐なものならな」
「人だからですか」
「心を高めてもな」
人だからだ、異常な理由で非道に殺されればというのだ。
「そうなるのだ」
「そうですか」
「成仏してもらうのに苦労した」
見れば老人の顔には疲労が見えていた、声にも。
「実にな」
「左様ですか」
「それでもですか」
「そうだ、だがな」
ここでだ、老人はこう言ったのだった。
「ポル=ポト派には多くの人が殺された」
「そうですね、カンボジア中で」
「相当殺されましたね」
人類史上最悪の割合でだ、カンボジアで殺戮が行われたのだ。
それでだ、ナム達も言うのだった。
「じゃあカンボジア中で、ですか」
「ああした怨霊達がいるんですか」
「そうだ、殺された者は死んでも忘れない」
怨み、それをだというのだ。
「そうした話がある場所には近寄らないことだ」
「わかりました、本当に」
「気をつけます」
ナム達もこのことがわかった、人の怨みの恐ろしさを。ポル=ポト派の虐殺の跡は彼等が追われてからもまだその爪痕を禍々しく遺していた。
髑髏の山 完
2014・1・19
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