暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
SAO
〜絶望と悲哀の小夜曲〜
とある夜の出会い
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ジ》を放ち、最初の猿人にとどめを刺そうとした寸前──

一瞬の間をついて、目標の右後方から新たな敵が前面にスイッチしてきた。シリカはやむなく標的を変更し、二匹目のHPを削りにかかった。最初の猿は後方に退き、何やら左手の壺を煽っている。

──と、視界の端で一匹目のドランクエイプのHPバーをチェックしていたシリカを驚愕させる現象が起こった。バーがかなりの速度で回復していくのだ。

どうやら壺には、何らかの回復剤が入っているらしい。

ドランクエイプとは以前にもこの三十五層で戦闘したことがあり、その時は二匹を労せずに蹴散らした。スイッチさせる余裕すら与えなかったので、よもやこんな特殊能力を持っているとは気付かなかった。シリカは歯噛みをしつつ、二匹目を確実に仕留めることに全力を傾ける。

だが、猛攻の末に二匹目のバーをレッド領域にまで減少させ、とどめの強攻撃を見舞うべく距離を取った瞬間、またしても横合いから無理やり割り込まれた。

三匹目のドランクエイプだ。最初の猿はもうほとんどHPをフル回復させてしまっている。

これではキリがない。口の奥に、焦りの味がじわじわと広がっていく。

シリカは、そもそもソロでモンスターと戦った経験がほとんどなかった。

レベル的な安全マージンというのはあくまで数値の話であって、プレイヤー自身のスキルはまた別の問題だ。

想定外の事態に際して、シリカの中に生まれた焦りは徐々にパニックの色彩を帯び始める。徐々にミスアタックが増加し、それは同時に敵の反撃も呼ぶ。

三匹目のドランクエイプのHPバーを、どうにか半分ほど減らした時──

連続技に連続技を繋げようと深追いしすぎたシリカの硬直時間を見逃さず、とうとう猿人の一撃がクリティカルで命中した。

棍棒は木を削っただけの粗末なものだったが、重量ゆえの基本ダメージとドランクエイプの筋力補正によって、シリカのHPは思いもよらぬ量、三割近くも減少した。

背中に冷たいものが走る。

回復ポーションの手持ちが尽きていることも、シリカの動揺を大きくした。

ピナが回復(ヒール)ブレスで回復させてくれるHPは一割程度、しかもそう頻繁に使えるものではない。

それを計算にいれても、あと三回同じダメージを受けると──

死ぬ。

死。その可能性が脳裏を横切った途端、シリカはすくんでしまった。

腕が上がらない。脚が動かない。

今まで、彼女にとって戦闘というのは、スリルはあってもリアルな危険とは遠いものだった。

その延長線上に、本当の《死》が待っているなんて思いもしなかった。

雄叫びを上げ、再び棍棒を高く振り上げるドランクエイプの前で目を見開いて硬直しながら、シリカは初めてSAOにおける対モンスター戦の何たるか
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