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あの純白なロサのように
あの純白なロサのように
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を竦め、正面に伸びる自分の影を見るとはなしに見ながら歩く。
 黒の騎士、か。顔を隠さず都に来ればそう言われるだろう事はわかっていた。まさか自分がこうして、都の武闘大会に出る日が来ようとは思っても見なかったと皮肉な笑みが浮かぶ。
 武闘大会は王室が開いているだけあって、甲冑を着込みフェアプレーに則って行う御前試合みたいなものだ。しかし貴賤問わず参加できるし、真剣で戦うとは言え命を奪うのは御法度(ごはっと)なので、不慮の事故さえなければ、失うものが少ない。その上優勝すれば最高位の騎士にもなれるので参加者も見物人も大層多い。当然、王も見に来る。娯楽の多い都でも、パレードの次に盛り上がるのがこの武闘大会だった。
 弟のいなくなった俺の四季はあっという間に過ぎた。俺はいつも酒場に入り浸っては考え事をしていた。夜は斧の代わりに剣を振った。
 パレードの時のように、その日が近づくにつれ、都は武術大会一色に染まっていった。
 さて、皆が期待するその武闘大会だが、呆気ないものだった。俺にとって。
 年季の入った黒ずんだ甲冑を笑われたのは最初だけ。俺の前に続々と膝をつく猛者達。観客は色めき立った。無名の俺が圧倒的な強さでもって勝ち進んでいるのだ、それはいい英雄物語だろう。俺も他人事だったら凄いなと目を輝かせていたかもしれない。
 そして誰からともなく気づく。あの甲冑、見覚えはないかと。
 この国の行く末が心配になるほどに、手応えのあるやつはいなかった。
 そう、たった一人を除いては。
 決勝戦、俺の目の前にはしなやかな白銀の甲冑を着た騎士がいた。
 氷の魔女。
 パレードの日、弟の命を一刺しで奪い去った女だ。
 女を前にして、俺は一種の感動で鼓動が高まるのを強く感じた。
 弟が死んで、あの夜女の涙を見てから、俺はこの日をずっと望んでいた。
 顔も隠さず、決して出ないと決めた森の家を捨ててきた。父の形見の甲冑を着込み、身を隠すことなく堂々と日の下に立つ。
 始め、の合図が降りても、俺たちは微動だにしなかった。
 強い日差しに景色が揺らぐ。
 先にしびれを切らしたのは観客席だった。訝しげにざわざわと(どよ)めき出すが、そんなことも気にならないぐらいに俺は女だけを見ていた。女も動揺することなく、俺だけを見ている。 互いに互いの強さを、睨み合うだけで感じていた。
 右…いや、左…できれば足を狙いたいところだが…。
 相手の出方を探り、息詰まるような空白の時間が流れる。
 古びた鎧の内側を、汗が伝う。
 ここまで、俺が睨み合ったまま動くことが出来ない相手がいるとはー…。
 噂も強ち、馬鹿にしたものではないと言うことか。
 このまま睨み合っていれば、体力の面から言っても俺が勝つのは明白だが、それでは皆が納得するまい。
 俺はそう覚悟し、ふ
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