あの純白なロサのように
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なったくちびるを震わせ、地を叩き、髪を振り乱して女は泣いていた。
女の鬼気迫る様子に、俺はひとつも声を掛けることが出来なかった。
ただ呆然と、泣き狂う女を見ていた。
気づけば花一本摘まず、俺の足はロサの泉から遠ざかっていた。しかし我に返る。こんな夜中に女一人…危険だ。送っていった方が良い。そう思ってもう一度戻ったが、既に女はそこに居なかった。幻かと思うほど綺麗に消えていた。俺は、女がいたところまで歩みを進めた。
白い白い大輪のロサが、競い合うように咲いている。その中に、きらりと光るものがあった。ロサの花弁の上にそっと乗っている雫…女の涙だ、と思った。
俺はその雫の乗っているロサを摘み取った。弟のための涙だ。この花は、弟にあげるべきだ。
そう、俺が教えるまでもなかった。女はどうしてか知っているのだ。弟が死んだことを。
それであんなにも嘆き悲しんでいた…。
何を女が謝っていたのかはわからないが、その姿には胸打たれた。もしかして自分がパレードのことを話してしまったから、弟が死んだと思っているのかもしれない。
それは違うと、慰めてやれば良かった。謝らなくて良いと言いたかった。
そんなに、心を砕くように泣かなくていい。弟は、あなたに会えて、あんなにも幸せそうに笑っていたのだから…。
しかしそれを伝えるべき手段は何もなかった。女は、もうここにはこないと直感があった。
果たして、それから何度ロサの泉に行っても、俺が女に会うことは二度となかった。
「酷い女さ、あれは。パレードの事件を見た?動揺もしないで小さい子供を容赦なく一突き、だよ。いくら王様のためとは言え…きっと流れる血も冷たく凍っていることだろうよ」
「近づきたくもないね。死神とも呼ばれているそうじゃないか。そりゃあ敵を殺してくれるんなら良いけど、ねぇ、不幸を持ってきそうで…」
「誰が何を言ってもにこりともしないんだって。いつも不気味な甲冑を着込んでいて、それでいて恐ろしく強いから軍も強く言えないんだとか…」
今日も酒場は賑やかだ。
俺は酒を飲みながら、色々な噂話を聞くとはなしに聞いていた。
この国には、氷の魔女と呼ばれる女がいる。
その女は、途轍もない嫌われ者らしい。
「そういえば、今年も武闘大会があるんだろ、お兄さんもそれに出るのかい?」
「まぁな」
「最後まで残るのはやっぱり氷の魔女だろうな。今年は骨のあるのがいると良いが」
「そうだな」
いきなり隣の男に話しかけられて、俺は適当にあしらった。
しかし話しかけた男は、おっと言うように俺の顔を見て黙り込んだ。
「お兄さん、黒の騎士によく似てるな…」
「髪も目も黒いからな」
「いや、それだけじゃなくて…」
「ごちそうさま」
俺は酒場を出た。
室内との気温差に首
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