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あの純白なロサのように
あの純白なロサのように
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前まで行ってしまった。
 兄ちゃんはやくー、と喧騒に紛れた遠くから弟の声が聞こえるが、何が早くだ。一番前に居る人は何時間も前からそこでパレードのためだけに待っているんだ。そこに割り込むなんて礼儀知らずも良いところ。知らぬ事とは言え、甘やかしすぎたか。早く連れ戻さなければ。
 俺は内心頭を抱えながら、「すみません」「すみません」と謝りつつ人並みを掻き分けて弟のもとまで辿り着こうとした。
 やっと弟の姿が見えてきた…というところで、人々が一斉に沸き立った。折悪くパレードが到着したらしい。馬や象といった動物ですら、全身重そうな黄金で飾りたてられて、絢爛豪華を体現した目にも鮮やかなパレードが近づいてくる。俺は興奮してどやどやと動く人波で押し流された。弟に手は届かない。人々の頭上に花が舞う。パレードの先頭は王だ。若き王ながら、臣下に良く心を配り善政を敷いていると聞く。みなその王が見たいのだ。
「お姉さん!」
 その声は喧騒を押しのけて、とても鮮明に聞こえた。俺の幻聴かと疑うほどに。
 悲鳴が上がる。
 いきなり何かがパレードの前に飛び出したのだ。嘘だろう!?それは見間違えることない俺の弟だった。そして、まっすぐ王に向かって駆けだしていく。とても嬉しそうに。いや、王に向かってではない。正確には王の後ろ―…頭の先まで白銀の甲冑に身を包んだ、一際小柄な人間が乗る白馬へと。
 俺は戦慄した。パレードの妨害は命と引き替えになる重罪だ!
 俺は周りの人間を突き飛ばしてがむしゃらに走った。弟に向かう衛兵よりもはやく!間に合えー…わかってる、間に合う距離じゃない、でも間に合ってくれ、お願いだ!
 王は弟を見てはっ、としたように綱を引いた。いきなり歩みを止められた王の馬が苦しそうに前足を高く上げて踏鞴(たたら)を踏む。
 その王の横を素早く白馬が躍り出た。躊躇無く磨き上げられた腰の剣を抜きながら。
「氷の魔女!」
 誰かが叫んだ。
 必死で伸ばした五本の指の向こうで、高く掲げられた白刃が眩しく陽の光を反射した。
 それは一瞬だった。
 弟は何が起こったのか理解していないと言った風で、その場に似つかわしくないほどきょとんとした顔をしていた。
 時が止まったかのようだった。
 群衆は呼吸さえ飲み込み微動だにしない。
 弟はゆっくりと自分の胸から生えた剣を見、その刃を辿って柄を握る手を目で追い、腕を登り白銀に輝く兜の向こうにその視線は辿り着いた。固く覆われた甲冑の下にあるものを、その時確かに弟は見ていた。
 ずるりと音を立てて、深々と刺さった剣が弟の胸から引き抜かれた。高々と鮮血があがり、剣を持つ白銀の騎士の鎧に弾かれて伝い落ちる。
 弟はにこりとひとつ笑って、崩れ落ちた。
 それを俺は抱き留めて、そのまま走る。再びあがった悲鳴と喧騒を、どこか遠く
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