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あの純白なロサのように
あの純白なロサのように
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 俺は考えた。いつかはこの弟に森を出て都を見せるつもりだった。それならこの機会はうってつけかもしれない。幸いにもその稀なるパレードは一月後に行われる予定だった。
「…わかった。良い子にしてたら連れてってやる」
 俺は甘ったれの弟が調子づくと困るので、わざと顰めっ面で頷いた。保護者役も楽ではない。しかしそんなことお構いなしの弟は飛び上がって喜んだ。
「本当!?いやったあ!兄ちゃん、後で嘘って言うのはなしだからね!」
「おい。良い子にしてたら、だぞ。わかってるか?」
「わかってるわかってる!やったぁ!お姉さんにはヒミツにしておいて、後で教えてあげよう!森から出てない僕が都のパレード見たって言ったら、ビックリするんだろうな〜」
 全く聞いて居なさそうな弟にやれやれと肩を竦めて、俺はふと今日の女の表情に陰りがあったことを思い出した。
 パレードで何かイヤなことでもあったのだろうか。いつも打てば響くような会話をしている女には珍しく口ごもりつつ答えていたのも印象的だった。
 …いや、俺が気にすることじゃないか。
 その後も弟と女はロサの泉で会っては楽しく遊んでいた。パレードの日が近づいても、弟は見に行くと言うことをしっかり女に隠しているようだった。
 そして、その日は来た。俺は南国風の服に身を包み、瞳以外頭の先までぐるぐると布で覆った。弟はそんな俺を不思議そうに見ていた。
「僕も布巻くの?」
「いや、おまえはいい」
「ふーん?」
 目をぱちくりさせていたのは一瞬の間だけで、すぐに弟の興味は他に移った。
 何しろ今日は、厳つい老兵でさえ心躍る、夢のパレードの日だ。
「ねぇねぇ、あれは、あの人は何をしてるの!?」
「あれは大道芸人だ。踊ったり手品をしたり火を噴いたりして金を稼いでいるんだ」
「すごいすごい!兄ちゃん!あれは、あれは!?」
「あれは牛だ。森には居ないな」
「えー!じゃあ、あれは!?」
 弟の興味は尽きない。俺は()もありなんと、聞かれたいちいちに答えてやっていた。
 すると、そんな喧騒を割るようにラッパが鳴った。その音は高く長く続き、俺たちと同様興味が千々に散っていた人々の動きが一度に止まった。
「なに、なに?」
 弟は不思議そうにきょろきょろと辺りを見回す。皆が同じ方向を見ているのも気になっているようだった。
「パレードが始まる合図だ」
「うわぁ!」
 そう教えてやると、弟は興奮のあまり走り出した。迷子になるぞと俺の声も聞こえない様子で、人混みをちょこまかと縫って駆けていく。俺の巨体では、見失わないようにするので精一杯だ。
 パレードの沿道には息詰まるぐらいの人垣が出来ていた。誰も彼もパレードをより良いところで見たいと押し合いへし合いしている。弟は、そんな人たちの足の間をすり抜けて、なんと一番
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