暁 〜小説投稿サイト〜
あの純白なロサのように
あの純白なロサのように
[25/25]

[9] 最初 [1]後書き
いられるだけで、彼女は幸せだったのかもしれない。
 それを、勝手な思い込みで、俺は根こそぎ奪ってしまった。
 彼女と話をすれば良かった。もっと。そうすればこんなことにはならなかっただろう。
 俺は怯えていた。彼女の笑顔を向けられる日を想像しながらその拒絶こそを怖れた。そして、俺の考える身勝手な「彼女の幸せ」を押しつけた。
 その結果が、これだ。彼女は王も俺も知らぬところでひとり息を止め、静かな世界に逝ってしまった。
 こんなことを、決して望んでいた訳じゃない。
 俺を見て欲しかった。
 弟を見るように、王を見るように、俺を見て欲しかった。
 ただ、ただ…本当に、ただ…それだけなんだ。
 今更全てに気がつくなんて、遅すぎる…。
 俺は震える手で彼女の兜の上の雪を払い、そっとその頬のあたりを撫ぜた。
 彼女にこうして触れられるのは、これが最初で最期になるとわかっていた。
 俺には、もうこの兜は外せない。それをきっと彼女も望まないだろう。多分、王にさえ…いや愛する王だからこそ、この兜を外さないで欲しいと望むに違いない。思い出として残るのなら、美しいままの自分でありたいと、女なら誰だってそう願うことだろう。
 せめて剣を置いてやりたいが、拳は硬く握りしめられ、それすらしてやれない。
 最期まで、強く(はげ)しく…運命に立ち向かった女だ。
 願わくば。
 もう二度と…誰かを殺して生きていかなければいけないような世界に彼女が産まれないよう。
 今度は、俺が盾となるから。彼女がこの国の盾となったように。
 そしたら…今度は俺の傍で、笑ってくれるか。
 弟に向けたように、王に向けたように、笑ってくれるか。
 俺もあなたを愛していたと、言ってもいいか…。
 たまらず膝を折った俺の上に日が昇る。
 きらきらと、彼女の足下から広がる雪が一面旭(あさひ)に輝き出す。
 そう、あの純白なロサのように。
[9] 最初 [1]後書き


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ