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あの純白なロサのように
あの純白なロサのように
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うに決まっている。
 後ろ髪を引かれる思いをしながらも、俺は家に戻った。
 その夜、「お姉さん」とのことを繰り返し話したがる弟を適当にあしらいながら、寝台に入っても考えるのはやはり昼間の女のことだ。
 幽霊…ではない。あれが幽霊なら狐や狸に化かされたと考える方がまだしっくりくる。…どちらも似たようなものか?
 しかし、あれは間違いなく生きている人間だった。
 ただ普通の少女とするには違和感がある。
 茨を抜けても(ほつ)れのないドロワ、普通の少女が持ち得ない背を射貫くような視線。
 深い海の底を覗いているような瞳、光を透かす金の髪、空を舞う粉雪よりまだ白い肌…。
「…」
 何度も何度も寝返りを打ち、結局その夜は寝付けなかった。
 女と弟は結構頻繁に会っているようだった。俺はその度に弟のあとをつけ、気配を消してじっと様子を伺っていた。怪しい女と弟を一緒にしていて、何かあってはたまらない。しかし弟が会いたがっている以上、会わせない訳にもいくまい。本業の木樵は遅々として進まないが仕方ない。
 どうやら女は俺に気づいているようだった。しかし、あのひりつくような視線はあれ以降一度もこちらに向けられたことはない。俺に害意がないと判断して、その辺の花や草と同じように、もしくはその髪を揺らす風のように、あってなきが如く扱われた。無視をしているんじゃない。それならまだいい。女が会いたいのはあくまで弟であって、俺にはそもそも全く興味が無いということなのだ。それには馬鹿にされているようで少し腹が立った。
 女はいつも笑顔だった。ころころと楽しそうに笑い、くるくるとよく表情を変えた。そんなに笑って疲れないのかと思うほどに。
 ある日、女と弟はいつものように楽しそうに喋っていた。弟がなにか言った後、珍しく女の表情が曇った。それは本当に微々たる変化だったので、幼い弟は全くそれに気がつかないようで、女に向かって重ねて何事かを言っていた。
 家に戻ってきた弟に、一足先に帰っていた俺はおかえりと声をかけてから、何食わぬ顔で今日も「お姉さん」と会っていたのかと聞いた。弟は待ってましたとばかりに頷く。弟が「お姉さん」と会ってからと言うもの、この家の話題はそれ一色だ。
「今日は何を話したんだ?」
「今日はね、都のパレードの話をしたんだ。この世のものとは思えないぐらいとってもとっても綺麗だって!ねぇ、兄ちゃん、僕、パレード見てみたい!」
「パレード…」
 五年に一度、王族が権威を見せつけるためにこれでもかと豪華なパレードをしているのは知っていた。なにせこの国の王自身もパレードの行列に加わるのだからその盛大さは計り知れない。おかげでパレードが近づくと貴賤無く皆浮き足立ち、都はこれ以上無いぐらい活気づく。都と言っても、一応この森も都の一部だ。ただ少しばかり離れている
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