あの純白なロサのように
[20/25]
[1]次 [9]前 最後 最初
い王が自分のせいで貶められるぐらいならと、彼女は躊躇無く身を引くことを選んだに違いない。
それにー…俺は、これでいいとも思っていた。
幼い恋を成就させてやれなかったのは残念だが、美しく優しい彼女には権力や身分なんてものとは無縁のところで、静かに幸せに暮らして欲しい。
それに戦争が始まってしまった。
敵の隣国は一年中雪に塗れた国だ。雪中行軍なんてお手の物の筈だ。通常、冬は雪が行く手を阻むので、自然と戦争も休止状態になるのだが、今年はそうは行くまい…。厳しい戦いになりそうだった。
この国がこの戦争に勝てるかは、この冬をどれだけ被害無く持ち堪えられるか、にかかっている。
俺はむしろ、彼女が隣国へ寝返っていてくれていれば良いとすら思っていた。
なぜなら、隣国はその領土の大半を雪と氷ばかりに覆われているとは言え我が国の二倍の面積を持つ…今回の戦、こちらには正直分の悪い戦いだからだ。
しかしいくら勝機薄くとも、太陽の騎士と呼ばれる身である俺は、先頭に立って戦わなければならない。それはやはり覚悟したとは言え…重いものだった。氷の魔女と呼ばれ、忌み嫌われながらも、彼女はこの国を守るために、こんな思いを何度も何度もしたに違いない。か弱い女の身で。なにがそこまで彼女を強くするのか。
俺は想いを振り切るように曇り空を見詰めた。
いや…いい。もう、彼女は全てから解放されたのだ。どこかで、なにも隠すことなくただ笑っていられればいい。それ以上は何も望むまい…。
もう二度と会えないと思うと、あのロサの泉で笑っていた彼女が懐かしかった。
都が雪に覆われた頃、敵は想像以上に激しい強さで以てこの国を襲った。
隣国の兵は、やはり冬に強かった。流石雪に慣れた暮らしを送っているだけはある。進軍の早さも考えられないスピードだった。
敵の手は国内を徐々に染めていった。俺一人が強くても、どうしようもなかった。当然だ。この国は、ひとりの少女に寄りかかっていたツケを今払っているのだ。当然の報いだ。
そう思えば国は憎いが、俺は俺を友と呼んでくれた聡明な王が好きだった。王がこの国と共に滅ぶのは許せない。ならば、戦うしかない。
国民の精神も疲弊していた。あれだけ英雄視されていた俺だが、少しでも勝てば最期の希望とばかりに持て囃され、敵につけいられる隙があれば、容赦なく非難され石を投げられた。
それは…仕方が無いことだ。国難に勝てぬ英雄など意味が無いのだ。悲しいが理解は出来た。
それに、この国の都を落とすのはいくら強力な兵でも容易くは行かない。何せ、都はぐるりと四方を山に囲まれた天然の要塞だったからだ。特に北側は傾斜の厳しい岩山だから、敵は確実に南から攻めてくるはず。どこから攻められるかわかっていれば打つ手もある。せめて…春まで、春まで持てば良い。
[1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ