あの純白なロサのように
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から立ち上がった。
「それはどういうことだ!?」
しかし王の様子とは反対に、大臣達はのんびりしたものだった。
「さあ?三日ほど前から姿が見えないと侍女が話しておりましたが」
「そなた達、それを知りながら何もしなかったというのか!」
「これは…御言葉ですが、月の騎士を解任されたひとりの女性の行動を、わたくしどもがどうしていちいち把握できましょうか」
「それに、こう申しては何ですが、我が国には太陽の騎士殿がいるではないですか。王ももう不要だと思ったからこそ、月の騎士を解任されたのではないですか?」
「痴れ者っ!」
王は一喝した。いつもと違う王の様子に、さしもの大臣達も一様に口を噤んだ。
王の焦りはわかる。なにせ、水面下で進められていた婚姻の日は、もう一週間後に迫っていたのだから…。
俺は呆然と立ちすくむだけだった。
やっとすわ誘拐か、と騒ぎだす面々だが、こんなことを言うやつもいた。
「これは、このタイミングで姿を消すとなりますと…もしや敵国に寝返ったと言うことも考えなくてはなりますまい」
「何、それは聞き捨てならないのではないですかな?」
「我が国は、つい三日前に隣国と戦争をすることになりましたな。その当日に失踪とは…あまりにもできすぎてはおりませぬか?」
「そういわれれば…とと」
王の無言の剣幕に、皆慌てて口を閉じたが、そういう疑問が一度芽生えれば例え王であっても消すのは容易ではない。
「彼女はわたしの王妃になる女性だ!」
王のその声にも、まさかという失笑が漏れただけだった。
「彼女は氷の魔女ですぞ?お戯れも程ほどに為さいませ」
「案外、それが嫌で逃げ出したのかもしれませんしな」
…俺は、きっとその言葉が真実なのだと思う。
雨上がりの独特な匂いが、都を包む昼下がり。俺は城の喧騒を逃れて、ひとりで塔の天辺に来ていた。白い城壁は、雨に濡れてつやつやと光っている。空は果てなく続き、山は王都を囲う。山頂は一足早く白く染まっていた。あれはじきに野裾を下り、王都に辿り着く。冬が来る。命凍える冬が。
彼女は、優しく、そして頭の回転も良かった。たった一瞬で、仲良くしていた弟の命を秤に掛け、そして自らの手で奪うと覚悟できるほど、決断力もあった。
あの夜…王妃にと恋われた夜、彼女は果たして何を考えていたのだろうか。
俺はわかる気がする。
一旦は承知し、秘密にしてと願い、それが現実となる前に跡形もなく姿を消すー…一度は驚いたものの、じっくり考えてみれば彼女のやりそうなことじゃないか?優しい、彼女の。
事実はどうであれ、彼女が残虐非道な氷の魔女、と呼ばれていたことは、物乞いの子供ですら知っていた。噂とは無責任なものだ。その彼女が人望厚い王の后、まして正妃になるとなったら、周りはどう思うだろう?
恋し
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