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あの純白なロサのように
あの純白なロサのように
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「畏れながら。父が、かつてそう呼ばれておりました」
「やはり、そうか…」
 王は感慨深げに頷いた。俺が黒の騎士の息子だというのは公然の事実だとして広まっていると思ったが、下々の噂は王の耳にまでは届いていなかったらしい。
「黒の騎士にはわたしも世話になった。よく見れば顔も瓜二つではないか。こうして息子であるそなたと相まみえて嬉しく思う」
「光栄な御言葉、父も喜ぶでしょう」
「うむ。ところで、今日そなたにわざわざ時間を空けさせたのは他でもない。…ちゃんと褒美を取らせていなかったと思ってな」
 俺は一瞬耳を疑った。褒美?人払いまでして、それだけのために?
 一気に肩の力が抜けた俺を他所に、王はにこにこと言う。
「何が欲しい?金か、それとも品がいいか、何でも言え」
「そんな…褒美を頂く理由などございません。わたしは何もしていないのですから」
「謙遜するでない。わたしは、本当にそなたには感謝しているのだ。快く受け取って欲しい」
 そう言ってくれる王には悪いが、俺は金も、物も、地位でさえ、本当は何もいらない。
 弟がいなくなって…突然の嵐に呑み込まれたように、俺は空っぽになった。
 黒く荒くれた嵐の中で、ひとり大海原に投げ出されたように、自分で自分の未来がわからなかった。これからどうなるのか。どこへ辿り着くのかさえも、全く見えなくて。
 ただ自堕落に繰り返される俺の朝も、昼も、常に光の射さない暗闇だった。
 俺は多分…生きる意味を欲しがっているのだ。そう思う。
 目印がなければ流れに任せて漂うままだ。それは嫌だ。生きていくのなら理由が欲しい。嵐の渦中へまっすぐ飛び込んでいけるほどの、熱く命を燃やす理由が欲しい…。
 きっとそれが、今の俺には、あの女の眩い笑顔なのだ。
「では、申し上げます」
 俺は、心を決めて王を見上げた。
「わたしの望みは…月の騎士を、その地位から追うこと…です」
 王の笑顔がすっと消えた。
 それを見た時、しまった…と思ったが、最早一度口から出た言葉は取り消せはしない。
 早まった…もしくは言い方が悪かったか?どちらにしても、あとはもう王の出方を見るしかない…。
 王は長い間、表情を消して俺を見ていた。顎のあたりを撫でながら、じっと何かを深く考えるように俺を眺めていた。
 俺はこの王が賢帝と呼ばれていることを、ふいに思い出した。
「…太陽の騎士よ」
 それは、喉の奥が粘つくほど長い時間だった、と思う。少なくとも体感的には途方もなく長く感じた。
「は」
 俺の絞り出す返事ですら、王には聞こえたか聞こえていないかの大きさだったに違いない。
 しかし王はそれには頓着せず、言葉を続けた。
「本音で話をしよう」
「は、い?」
 俺は王の言っている意図がつかめず、聞き返してしまった。

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