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あの純白なロサのように
あの純白なロサのように
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全て飛んでいってしまった。
 女は俺を振り返った。
 今日の女は、王から送られたという正装の銀のドレス姿で、とても美しく着飾っていた。耳元につけた白い結晶を模した耳飾りが揺れる。
 女は腕を掴んでいるのが俺だとわかると嫌そうに顔を顰めた。そして乱暴に振り解く。そのまま一切振り返らずに歩き去ってしまった。
「まっ…」
 引き留めて何をしたい訳じゃない。そう我に返って、掛けようとした言葉は呑み込んだ。
 …俺の望んでいるとおりに事が進んでいるはずだ。
 女を、戦争の道具じゃなくて、ただの女に戻してやる。
 そのためには、女の肩の荷を降ろしてやらなければならない。
 肩の荷を降ろすと言うことは、こういうことだ。女が負っていた戦いに関しての何もかもを、俺が肩代わりするのだ。
 このままで、いい、筈なのに…。
 俺はどこか釈然としないものを抱えながら、自分の席に戻った。男爵は偶然当たったと装って多少強めにどついておいた。
 俺の周りには人が溢れた。
 城の一室に部屋を貰い、そこには引っ切りなしに人が訪れた。女も、男も、下仕えのものから、王族まで、あらゆる人が黒の騎士を見たがった。しかし、一人だけ、そんな俺を(おとな)うことのない人がいた。
 氷の魔女、その人だった。
 俺が頼りにされるようになると、今まで氷の魔女に嫌々関わっていた人間はすっと潮が引くように誰もいなくなった。俺の仕事が見る間に山積みになるにつれ、氷の魔女はどんどん孤立していった。
 俺が、彼女の居場所を奪っているー…いや、これでいいのだ、と俺は言い聞かせながら、毎日忙しく走り回っていた。氷の魔女を気に掛けながらも、俺は彼女に意図的に避けられているようで、擦れ違うことなど一切無かった。
 大臣の話を聞き、書類の判をつき、王に面会をし、兵の指導をしているその少しの合間も、俺は彼女の姿を探した。
 彼女が、誰も知らぬところでひとり泣いてはいないかと、そのことだけが気がかりだった。
 そんなある日、俺は人払いした王に呼ばれた。
 密命でもあるのかと、俺は幾分緊張して行った。
「太陽の騎士、そう畏まってくれるな。床ばかり見詰めさせているのは忍びない」
「勿体ない御言葉でございます…」
 これは顔を上げろと言うことだと理解して、俺は気安く声を掛ける王を見た。王はそれでいいと満足そうに頷く。
 この国の王は、豊かな金の髪に青い瞳の青年だった。まだ十八歳だと言うが、忙しさのあまり妻を迎える暇もなく来ていると聞く。氷の魔女とはまた違った意味で、その若い肩にこの国の全てがのしかかっていると思えば、威風堂々とした姿さえ哀れみを覚えるほどだった。
 王はその日も上機嫌だった。
「巷でそなたは黒の騎士と呼ばれていると聞く。まさか、かの『黒の騎士』と、他人のそら似ではあるまいな
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