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あの純白なロサのように
あの純白なロサのように
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。覚悟は決めた。でも女は開放して遣って欲しい。
 ひとりの女に戻してやりたい。
 氷の魔女の噂は酷いものだった。極悪非道、敵を一刀のもとに殺す。笑ったところは誰も見たことがない。人の心を持ってない。厄介者。
 いいや、それは違う。彼女は、笑っていた。あの誰も来ないような森の奥で、白い花に囲まれてあんなに楽しそうに笑っていたのだ。
 およそ人が通りかかるような道から遠く離れたロサの泉に彼女が現れたことをずっと不思議に思っていたが、やっとわかった。それは必然だったのだ。彼女は、誰かの前で泣くことも、素直に笑うことも出来ないのだ。氷の魔女というただそれだけが故に。感情を見せられない彼女が苦しみながら森に分け入り、人の目を避け彷徨いながら辿り着いたのがあのロサの泉だったのだと思うと胸が詰まる。そして弟と出会った。
 氷の魔女なんかじゃない、彼女は犠牲者だ。
 友の死に心痛めて涙する、優しい優しい女なんだ…。
 俺は目の前の女に手を差し伸べた。
 女はそれを見てすっと表情を消すと、音もなく自分で立ち上がり、俺には目もくれず歩き去って行った。
 それは間違いなく長年彼女が被っていた、氷の魔女の仮面だった。
 俺はとられることなかった手を握りしめ、その背を複雑な思いで見ていた。
 本当は。
 苦しまなくて良いと、言いたかった。
 誰も…俺も、弟も、恨んでなんかいないのだと…。
 後日俺は城に呼ばれ、改めて王からお褒めの言葉を賜り、正式に騎士になった。最高位の騎士には星を冠した呼び名がつく。氷の魔女は正式には「月の騎士」と言う。俺には…「太陽の騎士」の呼称を賜った。
 王は(いた)く上機嫌だった。それもそうか。氷の魔女以上の強さを持つ人間が見つかったのだから。
 その夜の歓迎会では、俺はあらゆる人にもみくちゃにされた。
 できすぎじゃないかと思うぐらい、俺は皆に好感を持って迎えられた。
 一人の男爵が俺の肩を馴れ馴れしく叩きながら言う。
「そうだ!今度視察にも行こう!来たる戦争に備えて、行くのは最高位の騎士じゃないといけないから氷の魔女に頼む予定だったが、あんな女より貴殿の方が良いな!」
 それに反応したのは、氷の魔女本人だった。
 無表情で、つかつかと俺のところに来た。隣の男爵に冷たい目を向ける。
「男爵殿、それは既にわたしに頂いたお話のはずでは?わたしもそれに向けて準備を進めておりますが」
「ははは、御前試合で黒の騎士殿にあっさり負けておいてそんな口がきけるとは片腹痛い!偉そうなことを言う前にその腕を磨いたらどうだ?そのうち最高位の騎士の名誉も剥奪されるぞ!」
 女は男爵の嫌味にその長い睫をただ瞬きさせて、くるりと踵を返した。
 俺は咄嗟に後を追った。
 ずんずんと進む女の腕を掴んで、その細さに驚き、考えていた言葉が
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