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あの純白なロサのように
あの純白なロサのように
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いたが、そう言われれば気になってしまうのが人の常だ。
 三日後、弟はうきうきしながら家を出て行った。これは例のお姉さんに会いに行く気だなと俺はこっそり後をつけた。弟は一丁前にきょろきょろと尾行を警戒しながら、足は一直線にロサの泉へと向かっている。愚直でかわいい弟だ。気配を消して歩くなど俺にはお手の物だと言うのに。それでなくても弟の癖を知り尽くした俺に弟が勝つことは一生無いだろう。
 それに、こんな森の中に女一人というのが気になる。幽霊というセンも捨てきれないが、万が一、悪い人間だったらと思うと人となりを確認しておいて損はないはずだ。
 そう自分に言い訳しながら(しばら)く歩くと、緑と茶ばかりの森に色が加わった。目指す先に白いものが見える。あれがロサだ。弟はぴょんぴょんと飛び跳ねながらその花の中に駆け込んだ。
「お姉さん!」
 果たして、その人物はそこに居た。
 腰からたっぷりの布が広がるドロワという服の深い青はよくロサの花に映えた。こちらには背中を向けている。結っても居ない髪が、背の半ばまでを覆っていた。色は…金だ。(ほとん)ど白に近い金。驚いた。なかなか見ない色だ。
 その女性は、弟の声を聞き、ぱっと弾かれたように振り返った。その顔を見て、俺はまた驚いた。
 抜けるほど白い肌に、大きな瞳。その色は、着ているドロワと同じ深い青。博物館に飾られる人形のように整った顔立ちだった。間違ってもこんな森の奥に偶然現れるような人間じゃない。というかドロワは森に入るのに全く向いていない。裾が岩や木の枝にあちこち引っかかって大変だったはずだ。なのに、見たところドロワは大きな破れなどはない。女の身体能力がとても優れているのか、それとも本当に幽霊なのか…?ばかな。
 女は駆け寄る弟を零れんばかりの笑顔で迎えた。その手にはロサの花。弟を待っている間、淑女らしく花を摘んでいたらしい。
 何歳ぐらいだ?十四…五歳ぐらいか。まだこどもじゃないか。
 弟とその女は、かけっこしてじゃれあったり、互いに花冠を作ったり、泉の水を飲んだりして時間を過ごしていた。
 二人はとても楽しそうだった。
 女が優しくばいばいと手を振ったところで、俺ははっと我に返った。弟がこっちに向かってくる。まずい。俺はいそいで踵を返し…唐突に立ち止まって振り返った。
 視線を感じた気がした。しかもぼんやりしたものではない、背がぴり、と強張る戦場を思い起こすほどの視線。
 木や草で覆われた先、そうだ、その先は女が居たはずだ。その場から動いていなければ。しかしこちらからもあちらからもお互いの姿は目認できない位置だ。
 俺は見えない視線を手繰り寄せるように、厳しく目を細めた。
 しかし、弟ががさがさと草を掻き分けながら近づいてくるのが見えて、急いで背を向ける。
 …いや、気のせいだ。そ
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