参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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「ちっがーう!一体、何をどうしたらそうなんの!?」
あたしの怒鳴り声で、ぴちちち…と一斉に木から雀が飛び立ったのは、一週間後の朝だった。
偉そうに花見に行くわよ、と宣ったのに、直後あっさりとあたしは倒れた。一月半ずっと寝たきりで体力が限界まですり減ってる…っていうのをコロッと忘れていたのよね。抹をうんうん運んだり、惟伎高の壊滅的な料理の腕を見たのもあったのかもしれない。特に後半。あたしは惟伎高と抹に、叱られたり心配されたりしながら、布団から出ることを禁止された。そして惟伎高の目が光る中、大人しく…ばかりもしていなかったけど、あたしにしては概ねじっと体力の回復を待った。そして、七日も過ぎた晴れて今日、家主ならぬ寺主の惟伎高様から外出のお許しが出たのだった。
さてさて場所は石山寺の庫裏内、台所。三人とも襷掛けに髪も紐で結いあげ準備は万端、朝日が木々の葉を縫って柔らかく射し込み、ほっかりと炊けた玄米の湯気が食欲をそそる…。それは、のほほんとした朝の一幕の筈だった。…そう、惟伎高の、絶望的な料理オンチさえなければ。
「なんであんたは飯匙までお米と一緒に握っちゃうのよ!それはご飯を混ぜる道具!食べるものじゃないっ!」
「いや、でも、ほら、取っ手が出てるから持ちやすい…」
惟伎高は、飯匙がめりこんだ顔ほどの大きさの頓食を、鈍器のように振りまわしながら言い訳した。
「いやもでももないっ!何なのその大きさは!でかくすりゃいいってもんじゃないわよ!それに食べ終わった後のその飯匙どうすんのよ!邪魔でしょ!?持って帰ってくんの!?それともあんた飯匙まで食べる!?」
あたしがそう言うと、惟伎高はゴクリと唾を飲み込み、真剣な顔で頷いた。
「たべ、る」
「馬鹿ー!」
あたしは思わず手近にあった桶で惟伎高の頭をごいんと殴った。
こ、これは想像以上に先が長いぞ…。あたしは惟伎高をかってる方だと思うけれど、ちょっと考え直すべきかもしれない。天才と馬鹿は紙一重だと言うけれど、惟伎高は限りなく馬鹿寄りなんじゃないかしら…。もしくは、天は二物を与えずとはこのことなのか…。
あたしはぜいぜいと桶が乗っていた机に手を着いた。
横で、期待を裏切らない綺麗な頓食を作っていた抹が、はらはらとあたしたちを見ている。
「尼君様…」
抹は今日も美人だ。今日もって言うか、数日前に知り合ったばかりだけど。
「あぁ、抹、あんただけが救いよ〜…」
勢いで抹に抱きつこうとしたあたしの
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