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戦国御伽草子
参ノ巻
死んでたまるかぁ!

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作ったんだから、今日は是が非でも外に出て食べるわよ!」



「ンじゃぁ、瀬田川のあたりまで行くかァ。桜が果てぬ先までずっと続いて、そりゃァ見事なもんだ」



「桜が…いきたい」



 惟伎高にそう言われ、まだ見ぬ桜並木がぱあっと目の前に広がったようで、あたしはぽつりと素直な言葉を落とした。



 惟伎高はちらりとあたしを見ると、無言であたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。



 …なんだかね、惟伎高は鼻がきくわよね。頭をぐしゃぐしゃにするのも、癖もあるかもしれないけど、今のは慰めてくれたのよね、きっと。



 慰めて…あれ、あたし惟伎高に慰められるような気分だったのか。桜は好き。見に行きたいと逸る心も本当なのだけれど…うん…なぜか、そこには遠い悲しみが、ある。



 とおく、とおく、何重もの(うすぎぬ)に覆われた向こうに、心を震わせるほど深い哀哭(あいこく)がある、気がする。



 何でかな。



 散りゆく花をあはれと詠むこの国の心があたしの中にも粛々(しゅくしゅく)と息づいているのか、それとも別な理由があるのかはわからないけれど。



「よし、行くか。…輿(こし)、いるか?担ぎ手もいねェが…」



 珍しく躊躇(ためら)いがちに惟伎高が口を開いた。その声で、あたしは現実に立ち返った。



 輿とは、身分の高い貴人(あてびと)が移動の際に乗る乗り物である。でもなんで、みんなでのんびり散歩に行こうという今そんな単語が出てきたのかわからなくて、あたしは目をぱちくりさせた。しかも外出時手軽に乗る馬、でもなく格式張った、輿。いや、前田家の総領姫に、佐々家の次期当主候補と考えれば輿を使う身分っちゃあ身分なんだけど…あたしは今惟伎高に助けられた得体の知れない女で、惟伎高はただの生臭坊主で…んん?



「え、輿?誰が乗るの?抹?え、そんであたしとあんたが担ぐの?」



 あたしは意図がつかめなくて、ボケッと言った。その場面を想像したけど、間抜けだ、すっごく。朝からこんなに苦労して疲労困憊のあたしがなぜ更に人一人乗ったおっもい輿を担がなきゃあならんのだ。そもそも女が輿を担ぐなんて聞いたこともないぞ。まさかとは思うけど…あたしは惟伎高の中で男の一人に数えられているとか?そんな馬鹿な…。



 しかし惟伎高はあたしからふいと視線を逸らすと意外なことを言った。



「抹じゃなくておまえに…いや、無用な心配だったみてェだな」



「あたし?」



 聞き返している内に惟伎高はくるりと背を向けてすたすたと歩いて行ってしまった。 



 置いてけぼりのあたしはぽかんと惟伎高の背を見つめる。



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