参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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腕はするりと空を切った。
目の前で、反射のように避けてしまった抹が気まずそうに口元に手を当てた。
忘れていた。抹は極度の恥ずかしがり屋さんで、触られるのを過剰に嫌がるのだ。
「…」
「…」
「…」
三者三様に黙り(惟伎高は痛みで声が出ないだけだけど)、その場に変な空気が流れる。
あたしは、ふっ、と笑った。
「抹、随分腕をあげたようじゃないの。このあたしを避けるなんて」
「いえ、尼君様、あの…」
「なーんてね!ふはははスキあーり!」
申し訳なさそうにおどおどとあたしに近寄ってきた抹の腕を素早く取り、そのままあたしは抹の懐に飛び込んで、ぎゅっと抱きついた。抹の方が背が高いから、どうしてもあたしが抱きつく格好になってしまう。抹は意外と体に脂肪がなくて、男みたいに骨張ってがっしりと引き締まっている。女としては少しぐらい円やかな方がチヤホヤされるし、抹自身が気にしているかもしれないから、言わないけど。でも健康的な体型のあたしとしては、結構羨ましい。最近色々気になって…。
「あっ、あっ、あっ、尼君様!?なりません!尼君様!」
わたわたと慌てている抹の様子が面白くてこっそりにんまり笑っていると、抹とあたしの隙間に逞しい腕がぐいと押し入った。そしてそのまま、べりりとあたしは抹から引き剥がされた。頭上で溜息が聞こえる。それが誰かなんて見なくてもわかる。ここには、あたしと抹の他にはもう一人しか居ないのだから。
「いき…庵儒!」
非難をこめて名前を呼ぶと、こつんと惟伎高の顎があたしの頭の上に乗る。
「油断も隙もねェな…ッたく、やめてやれ、ピィ」
「庵儒様…ありがとうございます…」
抹は震える声で惟伎高に感謝を述べた。
「抹、何度も言うようだけど、女のあたし相手にそれじゃ恋人が出来た時ど〜すんのよ!今から慣れておかないと!じゃないとその内いっそのこと庵儒を嗾けムググ…」
「はいはい。他人の心配は良いから、早ェとこ弁当作っちまおうぜ。飯が冷めちまう」
「ぷはっ!誰のせいよだーれーの!時間がかかっているのは、誰かさんがマトモに頓食のひとつでも作れないからでしょ!?」
「うお、藪をつついたか…」
「誰が蛇よ、だーれーが!」
「蛇と言うより鬼…」
「ぬぅあんですってぇ〜!?」
「あ、尼君様、僭越ながら…庵儒様は座主様ですし、人には得手不得手というものがございます
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