第百六十七話 信玄動くその五
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「集めよ。信玄は侍は狙うが民は狙わぬ」
自分が治める相手だからだ、襲う筈がなかった。信玄が好きなのは戦ではなく政であるからだ。民を襲わぬとわかっているからだ。
「ここはな」
「あえてですか」
「国境で迎え撃つのではなく」
「籠城じゃ」
それを選ぶというのだ。
「わかったな」
「はい、では」
「今より」
こうして家康は全軍で浜松城での籠城に入った。そうして武田を待ち受けるのだった。
その報を聞いてだ、岐阜の信長は安堵した顔で言った。
「それでよいのじゃ」
「徳川殿はですな」
「籠城で」
「うむ、徳川では武田に勝てぬ」
だからだというのだ。
「ここはな」
「籠城をしてですな」
「我等を待ってもらうのですな」
「そうじゃ」
まさにだ、その通りだというのだ。
「ではよいな」
「殿、ですが」
ここでだ、大谷が信長に言ってきた。
「一つ気になることがあります」
「何じゃ、それは」
「若しやと思いますが」
大谷自身もそれはないだろうと思っている、だがあえて言うことだった。
「武田が浜松城を放置してです」
「徳川の領地を横切ればか」
「その場合は」
「流石にそれはないと思うがな」
信長もこう言うのだった。
「幾ら何でもな」
「はい、そうすれば武田は挟み撃ちにあいます」
それ故にないというのだ。
「我等と徳川殿の軍勢に」
「三河でな」
「我等は尾張から入りです」
「竹千代は浜松から出てな」
「武田は挟み撃ちに逢います」
そうなるからだ。大谷もまさかと思っている。
「ですから考えられないですが」
「そうじゃな、徳川の兵も強い」
もっと言えば家康も彼の下にいる徳川の諸将もだ、四天王をはじめとして勇将達が揃っている。その下にいる兵達も強い。尚且つ家康への忠義は凄まじいものがある。
その彼等にだ、背を向けるなぞとは信長も考えられない、それで信長も言うのだ。
「浜松城を無視すればな」
「はい、それは武田の負けに他なりませぬ」
「ではそれはないな」
「到底」
「ではじゃ、兵の集結を急げ」
信長は諸将にあらためて告げた。
「十五万じゃ、そしてじゃ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「上杉も動くからのう」
武田だけではない、彼等のことも頭に入れて言う信長だった。彼はここでも一つの戦だけを見てはいなかった。
「上杉にもじゃ、備えとしてじゃ」
「兵を置きますか」
「北陸にも」
「北ノ庄の城はまだ出来ておらぬがな」
それでもだというのだ。
「一乗谷に五万じゃ」
それだけの兵を置くというのだ。
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