禁断の果実編
第81話 倒れた咲
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やってんのか?」
「やってるやってる」
舞が階段を登ったところで、紘汰は舞を呼び止めた。
「先行っててくれ。咲ちゃん一人にしとくの、心配だから」
「……あ。ごめん……」
「いいって。舞こそ、ずっとみんなの司令塔してて疲れてるだろ。しばらく代わるから行って来いよ」
「うん……じゃあ。何かあったらすぐ連絡してね。絶対だからね」
「ああ」
紘汰と舞は通信機を交換した。ガレージを出て行く舞を、手を振って見送った。
紘汰は踵を返して簡易ベッドに歩み寄り、イスを持って来て腰を下ろした。
「……こーた、くん」
「ごめん。起こしちゃったか?」
「ううん、ちょっとまえから、起きてた」
咲はブランケットから手を出して紘汰に伸ばした。紘汰は咲の手を両手で取った。
握った手は、こんなにハリがなかっただろうか。自分をいつも見上げた目は、こんなに無気力だっただろうか。
“大人に成長するために費やされるべき養分を……”
“この子は大人になれないかもしれないってことよ”
背筋を悪寒が駆け上がった。大人になれない。それが何を意味するかは湊にも分からないと言った。
単に外見に変化がないまま歳を重ねるだけならいい。しかしそれ以外の意味だったら。
「あの、さ、咲ちゃん」
聞いても幼い咲を不安にさせるだけ。頭では分かっているのに、心があの宣告に付いて行けず、口を開かせる。
「咲ちゃんは、オトナになれないって言われたら、どうする?」
ぼんやりと目線をさまよわせていた咲が、急に目に光を取り戻した。
「なりたい!」
咲は飛び起きた。紘汰は慌てて、咲をなだめるために両肩を掴んだ。
「オトナになりたいよ。なれないなんてヤダ。センセーとか舞さんみたいなオトナになって、今できないこと、イッパイするの。ヘキサたちといっしょに、思い出たくさん作るの」
それは当然予想されうる答えだった。思い出を「作っていく」ことを大切にするのが室井咲だ。
「それに」
まだあるのだろうか。紘汰は咲を見返した。咲は、ほのかに笑んだ。
「オトナだったら、今よりもっと、紘汰くんのこと、たすけてあげられるでしょ?」
堪らなかった。
紘汰は咲を抱き締めた。こんな小さく弱々しい少女が、自分のために大人になりたいと言った。心を、打ち抜かれた。
「紘汰くん? どうしたの? ねえ」
咲の手が背中を撫でる感触がした。それもまた紘汰の胸を締めつけた。
「大丈夫。咲ちゃんはちゃんと大人になれる。俺が、ならせてみせるから」
支離滅裂を言っている自覚はある。けれども、それくらいの気持ちを咲に対して感じたのだ。
それをどう表していいか分からなくて、紘汰
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