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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十八話 黒子は動き、舞台は廻る
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ニウスキィは愚痴をこぼした。
「この辺境の連中、殿下は無能と言っていたが中々どうしてやるではないか。侮るのは危険だな」
自分たちが被害担当の役を割り振られた事は理解しているがそれを差し引いてもけして馬鹿にできないものだとクラントニウスキィは考え、そして思考の向きを半ば以上帝都に向けながら戦後について思いを巡らせていた。
 ――分に合わない戦にならなければ良いが。強者と見られていた者が弱者だったのならば良いが、弱兵と見られていたものが強者だった場合、兵達が死に、更に前線指揮官は驕った上層部の責を押し付けられ、栄達の道から追いやられる事になる。

「――ふむ」
僅かに白いものが目立ち始めた顎髭を撫でながらクラントニウスキィは最悪のケースについて考え始めていた――とはいってもそれは<帝国>軍の敗北ではなく、あくまで勝ち方の範疇の問題である。つまるところ<帝国>軍は、東方辺境領軍はそうした存在であるとクラントニウスキィも確信しているからである。
 ――戦後の処理次第では殿下から適度に距離をおくべきかもしれないな。このような島国で泥沼に嵌りこむ事が更なる栄華を齎せるとは思えない、<帝国>に、東方辺境領に、そして何よりもこの俺に。

クラントニウスキィがかつて軍中枢に籍を置いていたときに見てきた実情から判断するに、現在の〈帝国〉軍に求められている事は単に戦争に勝つ事ではない、勝つことは当然であるのだから、むしろ費用対効果の追求こそが求められているのだ。財政赤字を抱えた官僚達の視線は軍に向いている。領土拡張の為におこした戦争で赤字を出すようになったら東方辺境軍は軍縮を命じられる事になるだろう。ここまで精強な軍を保有する東方辺境軍は当然ながら莫大な予算を与えられている――それこそ、連中の考えた基準に基づくのならば東方辺境領の財政に見合うものではない事は明らかだ。
つまるところ、この戦争がもくろみ通りに進まないのだとしたら栄えある東方辺境領軍は、軍拡の為に彼方此方の辺境にて適度な弱的との小競り合いを求めている軍部に対して分かり易い見せしめとして官僚達に利用されるに決まっている。そして東方辺境軍は黄金時代を終え徐々に日陰へと追いやられる事になる。

「――殿下が我らに再び快勝を齎していただければ問題ないのだがな」

「閣下、そのためにもこの前哨戦を手早く済ませねばなりません」
 参謀の一人が旅団長の溜息に苦笑する。
「あぁ、分っている明日になれば――!?」。
 クラントニウスキィが首肯したのとほぼ同時に――外から悲鳴の入り混じった銃声が夜気を切り裂いた。

「何事だ!」
 クラント二ウスキィは素早く鋭剣を抜き払い、歴戦の将軍らしく恐れを見せずに天幕を飛び出すが――その先には絶望的な光景が広がっていた。
暗闇に響く慄然たる恐怖を駆り立てる
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