第三部龍州戦役
第四十八話 黒子は動き、舞台は廻る
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一里の場所に位置する大隊宿営地。そこに隣接して小規模大隊規模の反応があります」
「輜重部隊の可能性は?」
輜重部隊だとしたら敢えて部隊を晒す意味はない。第二旅団が防衛線を後退させた為、集積所である海岸堡との補給線が短くなっている。兵站を潰すのならば海岸堡を潰さなくてはならない。
「いえ、その付近には人間達が固まっている模様ですが輜重兵の動きとは違うようです」
「――旅団本部と本部附き大隊の可能性が高い、と」
「はい、支隊長殿。自分はそう考えております。位置からみてもその可能性は高いです。現在、捜索剣虎兵小隊が偵察に向かっています」
赤みの消え失せた顔で尋ねる支隊長に香川情報幕僚も顔面を僅かに青くしながら頷いた。戦闘を恐れているだけではない――ここで戦闘を行う事が正しいかどうかを恐れているのだ。
“北領帰り”として信頼を集めている馬堂豊久は、自身が着想したこの作戦はなにもかもが投機的で不完全なものではないかとの疑念を押し殺し、自信に満ちたかのように見せかけるべく、笑みを浮かべる。
「――いいだろう、先遣支隊も遂に血を流すときが来たな。首席幕僚、第十一大隊と聯隊鉄虎に攻撃準備を、剣虎兵二個大隊の理不尽さを見せてもらうとしようか」
同日 午前第二刻半 南方戦域〈帝国〉軍防衛線より北方十四里
東方辺境鎮定軍第21師団第二旅団本部
「シュヴェーリン閣下はまだ見つからぬのか?」
第21師団第二旅団長・クラントニウスキィ准将は腕組みをして唸る様に言った。
西方諸侯領の下級貴族出身者であるが佐官時代の終盤を〈帝国〉の軍令機関である軍事総監部で過ごし四十を迎えて間もなく准将に昇進した英才でもあり、旅団長となってからは東方辺境領軍有数の闘将たるシュヴェーリンからも信任を受けた堅実かつ円熟した指揮官である。
「はい、閣下。哨戒の頻度も増やしておりますが、供回りの者も見つからないとなりますと・・・」
彼に付き従う旅団参謀長が張り詰めた声で返事をする。
「・・・師団司令部からは何も?」
「はい、閣下。司令部にも戻っていないのは確かな情報です」
クラントニウスキィが不機嫌に鼻を鳴らしながら書面をしたためる。
彼は忠良な<帝国>軍高級将校ではあるが、人並み以上に出世欲も官僚的な思考も持っている。場合によっては師団司令部に全ての不手際を押し付けようと考えていた。
「わかった、我々も哨戒網を更に密にする、それとこちらから本営に騎馬伝令を送る。さっさと師団司令部の機能を取り戻させねば話にならん」
参謀長が伝令を命ずるべく外へ飛び出す。
小半刻程、幕僚達と日没までに受けた被害とその補充状況の再確認と明日への再反攻計画について会話を交わす。眠気覚ましの黒茶を啜りながらうんざりとしたようにクラント
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