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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十八話 黒子は動き、舞台は廻る
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岸堡を制圧する事も視野に入れるべきかと」
 常の淡々とした口調で語られた首席幕僚の意見に支隊長は一瞬黙り込んだ後に、「――おいおい、あの姫さんに夜這いをかけようとは、また随分と大胆なこったな。お前がそこまで突っ走るなぞ思わなかったよ。なんだ、前線の空気にあてられたか?」と僅かに笑みを浮かべて言った。
「私は首席幕僚ですので。予想される状況を想定した対策を具申するのみです」
 首席幕僚が常の通りに素っ気なく返すと若い部隊指揮官は笑みを浮かべた。
「よかったよ、お前を首席幕僚に入れておいて」
 こうした冷静さと視野の広さこそ、豊久が首席幕僚に求めていたものである。
「ですが、支隊長殿。我々の浸透距離は十里程です。橋頭堡の距離からも考えれば旅団本部が周辺数里以内に配置されている事が哨戒網を密にされている主要な要因である可能性が高いです。勿論、行方不明になった高級将校の捜索も兼ねているでしょうが、こちらの浸透を確信していると考えるのは早急です。まだ慎重さを捨てるには早すぎます」
 戦務幕僚の石井が楽観的な行動予測を立てる二人に釘をさす。
 確かに、事前の攻勢によって第2旅団が防衛線を縮小している事によって近衛の浸透部隊より早くこちらが敵の司令部に到達しつつあるからこその哨戒網である、という事は当然のことである、石井の意見は堅実な指揮官なら当然のことである。
「あぁ分かっているさ。当面は相手に悟られずに一気に頭を潰す、それだけだ」
そうそう甘い夢が現実と程度の敵ではない、大敗の末に理解しきっている豊久は苦い笑みを浮かべて言った。
 ――何とか払暁までに師団司令部を潰したいものだ、司令部まで辿り着けば剣虎兵達が白兵戦に持ち込める。まだ、俺達はあの龍兵に対抗する術は持っていない、だからこそ、こうして連中が出て来ない夜にこうしてこそこそと動いているのだ。払暁後に出くわしたらそれこそ、追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ、なんてことになる。

「――敵は第一に時間、第二に〈帝国〉軍、か」
豊久の呟きに幕僚達も頷く。それは当然のことであるからだ。
「なによりも払暁までに第三軍が突破を行える筋道を立てねばなりません」
大辺が先遣支隊の作戦目標を改めて提示する。
「だな。俺達は明日の第三軍が行う再攻勢の舞台を整える黒子みたいなもんだ。黒子は黒子らしく観客の目に入らぬように時間を緊密に守らなくてはならないのだ。さもないとおっかない観客から爆弾を叩きつけられるし、華の<帝国>砲兵に叩き潰される。剣虎兵は夜の支配者であるが、陽光の下では一兵科にすぎん」
 豊久は火を着けていない細巻を弄びながら思索にふけりそうになるが、それをとめるかのように情報幕僚が歩み寄る。
「支隊長殿。戦闘導術中隊より報告がきました。先程報告しました北西方向に約
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