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トワノクウ
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第二十五夜 風花散る (三)
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向けて笑みの質を変えた。

「じゃあね。ばいばい、薫ちゃん」

 黒鳶は薫を抱えて背中を向けた。

 しばらく離れて、薫が勢いよく顔を上げた。


「くう! ごめんね、ごめんね、ほんとにごめんね!」


 必死に叫ぶ薫に、自分は何を思っただろう。

 一度はくうを殺した。くうが白鳳でなければ取り返しがつかなかった仕打ちをした薫。殺したいくらいにくうに嫉妬し、劣等感に苛まれていた薫。

 哀れで愚かで、だからこそとても愛おしい友に対し。
 くうは、薫と同じく哀れなほどに愚かしい場所にいる者として、笑ってみせた。






 薫たちが完全に見えなくなってから、くうは切れのよい息を吐いて笑んだ。
 帰らなければいけない。きっと露草や空五倍子ならくうを心配してくれているから。

 翼を出して一度森の木々を抜ける高さまで飛び、目立つ五重の塔を目指して飛んだ。すぐに塔は近づいた。

 塔の境内に一つ羽ばたき、ドレスの裾を押さえて着陸する。露草は中に入らず待っていてくれた。

「ま、また来ちゃいました、です」

 へら。とりあえず笑ってみせた。体内では心臓が激しく打って、吐きそうな気分であっても。

 露草は錫杖を木の枝に戻して消すと、ずかずかとくうの前まで来て、戸惑うくうの――頭に拳骨を落とした。

「た!? え、ふぇえ!?」
「これ露草! 白鳳は陰陽衆と一戦交えたあとなのだぞ!?」

 空五倍子が飛んで来た。塔の出入口を見やれば梵天も出て来たところだった。

「こいつが見当違いなこと言うからだ」
「だ、だってくう、ここに住んでるわけじゃありませんしっ。一度出てったから、『ただいま』はだめって思ったから。あの――ごめんなさい」
「謝るくらいなら最初から『ただいま』って言え。意地っ張り」
「つ、露草さんだけには言われたくないですぅ」
「――ああ、もう、どっちもうるさい」

 梵天が、頭痛がするといわんばかりにこめかみを押さえ。

「くう。しばらくはここにいろ。雑兵とはいえ陰陽寮とやり合ったんだ。みすみす人里に出たら次こそ狩られる」
「いいんですか?」
「俺はだめなことは最初から口にしない」
「ありがとうございます!」

 くうは大きな溜息をついてしゃがんだ。梵天からお墨付きが出たのだ。これで天座の彼らともっとたくさんの時間を過ごせる。

「くう?」
「なんだか……とっても疲れちゃいました」

 見上げると、梵天は優しくくうの頭に手を載せた。
 何か言われることもなかったが、彼の手はとても暖かかったのでそれだけでよかった。



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