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トワノクウ
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第九夜 潤みの朱(二)
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のの方向を狂わせる。藤袴は免状を持っているんだ。発動の原因はお前しかいないだろうが」

 知ったことか。くうは誰よりも篠ノ女空が人間であると知っている。断じて屈してなるものか。

 くうが再び青年を見たとき、青年の日本刀を持つ手の甲にあるものが、目に飛び込んだ。

(不思議な形のしるし。くうと同じ。薫ちゃんにもあった)

 くうの脳裏にアミューズメントパークでの出来事が蘇る。アトラクションドームに入る前に彼の手の甲に押されたスタンプ。くうのスタンプも薫のスタンプも、その位置には、あのしるし。


 ――なんであんたといい中原といい……=\―


「潤、君?」

 零れ落ちた名に、目を瞠ったのは青年のほうだった。

「お、まえ――どうしてその名前を」
「潤君なの!? 中原潤君なんですね!? 私、くうです、篠ノ女空!」
「篠ノ女って……嘘だろう!?」

 驚愕をあらわに青年はくうの前まで駆け寄ってきて、くうの顔を至近距離でまじまじと見る。
 こうしてみると、くうにも彼が中原潤だという確信が強まる。すっかり精悍になったが目鼻立ちは潤のままだ。

「確かに面影は……けどこの髪は、それに目まで」
「目は鵺に奪られちゃって。髪は、こっち来たショックで白髪になっちゃったんだと思います。ほら、無人島でサバイバルしてるドラマってよく脱色するじゃないですか」
「色が抜け落ちるほどのショックって、お前……」

 潤は苦しげに面を歪めて、巫女たちを顧みた。

「武器を下ろせ! 俺の友人だ」

 巫女たちは困惑を滲ませて弓や薙刀を下ろしてゆく。

 潤自身も刀を迷わず鞘に納め、くうが宙にさまよわせていた両手を取ってくれた。潤にまっすぐ見つめられ、くうは状況を忘れて微笑むことができた。

「薫ちゃんに聞いてはいましたけど、潤君だってすぐ分かりませんでした。どうやってこっちに来たんですか?」
「カプセルが誤作動したと思ったらこっちに放り出されてたんだ。色々あって、今はこの神社で働いてる」

 色々あって、で潤の目が泳いだのをくうは見逃さなかった。

「けど、どうして篠ノ女が方違えに引っかかったんだ? あれは妖の因子を持つ者にだけ反応するのに」
「くうにも分かんないです。最初、薫ちゃんが自分のせいかも、って言ったんですけど、違うんですよね?」
「許可証あるから長渕は引っかからないはずなんだ。だから連れが、と思ったら来たのはお前で」

 篠ノ女。長渕。お前。口調が全体的に男っぽくなっている。男子は成長にしたがって口調が荒くなるものだが、潤がそれをやるとなると違和感しかない。

「やっぱり分からないな。銀朱様に諮ってみるしかないか」
「ぎんしゅさま?」

 答えたのは別の声だった。


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