七十三 落花流水
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われなかったか」
弁解を求める白ゼツの言葉を遮って、再度問い質す。まるで仮面の男との会話を見ていたかのような詰問にゼツは顔を引き攣らせた。
無言で俯くゼツを暫し眺めた後、ナルトはわざとらしく溜息をついた。やにわに、足下で倒れている鬼鮫を片手で持ち上げる。
そして、何処にそんな力があるのかというくらいの細腕で、彼は鬼鮫をゼツに投げ渡した。慌てて鬼鮫を受け止めたゼツがナルトらしからぬ乱暴な所作に困惑の表情を浮かべる。
直後ゼツが青褪めると同時にナルトは言い放った。
「…鬼鮫を連れ帰れ。そうすれば、この件は不問にする」
そう告げられるや否や、ゼツは凄まじい威圧感に襲われた。言葉の端々からもビリビリと怒りが感じ取れ、慌ててこくこくと頷く。それを尻目に、ナルトは視線をイタチに戻した。
鬼鮫を背負ったゼツが音も無く姿を消すと、ナルトは素早く周囲に眼を走らせた。気配が完全に消えたか確認した後、念入りに結界を張る。
五感の遮断及び幻術の二重結界を自身とイタチの周りに張り巡らしてから、彼は改めて口を開いた。
「イタチ」
名を呼ばれたイタチが殊更ゆっくりとナルトに顔を向ける。ゼツに向かって鬼鮫を投げた行動に疑問が生じ、イタチは尋ねた。
「わざとあのような振舞いをしたのか?」
「ああ。鬼鮫には悪いがな」
イタチの問いに苦笑したナルトが肩を竦める。それだけでナルトの意図が読めたイタチは眼を細めた。
神出鬼没なゼツを追いやるに効果的な方法。それは仮面の男を引き合いに出す事だ。
厳しく言い渡されていたにも拘らず、再び独断でナルトを見張っていた。その事実が仮面の男の耳に入れば、ゼツにとってマズイ。
だから黙止しておく代わりに鬼鮫を『暁』のアジトへ連れ帰るようナルトは告げた。その際、多少乱暴に振舞えば、ゼツはナルトが怒っているのだと思い込むだろう。
その行動目的が、ゼツがこの場を離れざるを得ない状況に持ち込む為だとは知らずに。
「君の眼は……いつも遙か先を見ているな」
感嘆雑じりに呟いたイタチを、ナルトは無言で見つめる。その後で続けられた「…俺が曇っているだけか」と自らを嘲るイタチの声を、彼の耳は確かに拾っていた。
陽光が水面を照らす。キラキラと輝く水上で対峙する二人は、まるで秀麗な絵画の一部のようだ。
身動ぎ一つしない双方の間で流れるのは殺気や緊張感などではない。
「イタチ…お前の眼はどこまで見えている?」
やがて、重々しい口調で告げたナルトの声がその場に響き渡った。一瞬ギクリと身体を強張らせたイタチに、更なる衝撃が齎される。
「いや、違うな。言い方を変えようか」
全てを見通しているかのような澄んだ青がイタチを捉える。空とも海とも似通った、それでいて違う美しい青。
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